トレンド予測しミスを恐れず
棋士は次の一手を選ぶ時、時代、流行との「マッチング」も強く意識している、と羽生さんは話す。「ファッションなら『次の冬は黒が流行る』というように、これからの将棋の指し方ってこういう方向にいくのでは?と予測して指した手が、次のトレンドを生み出すことがあります。マッチングがうまくいったからこそ大きな成果が出るというのは、他のいろいろな仕事においても同様ではないでしょうか」。
そのために常に意識するのは、3カ月先の将棋のトレンドがどうなっているのか、ということ。当たるか外れるかは別にして、予測し続けることが重要だと考えている。「時に、新しいアイデアの鉱脈が深く、次の1年のトレンドになりそうな戦術を見出せることがあります。それは、誰が見ても、『指されてみたら、その理屈はよく分かる』ものです」。
成功体験にとらわれず、失敗を恐れないためには、「ミスは、ミスをした瞬間から考えることが必要」とも話す。「ミスをする前には、連続性や継続性、一貫性が大事。でもミスをしてしまったら、それまでの流れは関係ない。初めてその場に遭遇したと考え、意図的に目の前の状況に集中しなければならないと思います。その場で反省してしまいがちですが、反省、検証、総括は対処の後です」。
発信する時は「等身大に、難しい言葉を使わないこと」がモットー。その一方で、常に時代にマッチした新しい一手を予測し、ミスは遭遇してから対処する。記事見出しに、「羽生マジック」の文字が躍ることは多いが、その秘訣はここにあるのかもしれない。
将棋棋士 羽生善治氏(はぶ・よしはる)
1970年生まれ。中学3年生でプロ棋士に。89年、19歳で初タイトルの竜王位を獲得。96年七大タイトルを独占。2013年度は4つのタイトル戦に登場し3冠(棋聖、王座、王位)。スポーツ選手など著名人との対談や著書も多数。