省庁横断の広報連絡会も
安倍政権以前から、官邸が司令塔として国際広報を束ねる「官邸主導」の流れは、徐々に強まってきたと思います。たとえば、農水省が和食を、観光庁が「ビジット・ジャパン」を、経産省が「クール・ジャパン」をそれぞれ推進していますが、これらがバラバラにプロモートされるのではなく、ひとつに束ねて、効果的に売りこんでいく、そんな役割を官邸が果たすようになってきたな、と。
そうした連携を含め、どのように国際広報を進めていけば良いのかを具体的に話し合う場として、さまざまな会議が発足しています。官房長官をヘッドとした国際広報強化連絡会議(4月発足)では、たとえば、TICAD(アフリカ開発会議)分科会での議論を通じ、日本のODAのみならず、PKO活動や地デジ支援などを紹介するコンテンツを制作し、NHKと連携しアフリカの10カ国以上で放送することができました。こうした省庁横断的な広報の取り組みが進んでいますね。
また、世耕(弘成)副長官をヘッドとした対外広報戦略企画チーム(8月発足)では、日本企業への勤務や在日経験、留学などで日本につながりをお持ちの方をリスト化し、日本を紹介するパンフレットやDVDなどをパッケージにして送る試みを始めました。日本の強みや魅力、政策などを、こういった方々を味方につけることで広げていただこうという、草の根レベルの広報活動にも取り組んでいます。
ネガティブでも先手の発信
内閣副広報官として外遊に同行するときの役割は、現地や国際メディアに対し、安倍政権の基本的な政策や、訪問地との二国間関係に関わることや実際の首脳会談でのやりとりなどをブリーフすること。私は帰国子女ではなく、英語では今でも苦労しています。外務省時代の在米日本大使館では広報文化班に所属していたので、ある程度のメディアリレーションズは経験してきました。それでも、行く先々で、伝えるべき中身をどう伝えるか、その国の置かれた事情や二国間関係などを踏まえて表現を変えたり、伝えるべきメッセージを常に考えながら取り組んでいます。往きの飛行機では、たいてい分厚い資料を読み込んでいるうちに、現地に着いてしまいますね。
外国人記者に“あうんの呼吸”や“浪花節”は通用しないので、雑談のようなムードであっても、常に“オンレコ”であるという緊張感を持っています。また、メディアを必要以上に楽しませる必要はないと心しています。
海外メディアからは「またいつもの話ですか?」という顏をされることもありますが、伝えるべきことを誤解なく伝えるのが私の役割ですから。
広報をやっていて難しいなと感じるのは、ネガティブな話題ほど大きく報道され、早く拡散してしまうということ。橋下(徹)大阪市長の従軍慰安婦発言についてCNNが一番初めに出したウェブの記事は、「日本の政治家が慰安婦を肯定する発言をした」という見出しで、安倍総理の写真が貼り付けてありました。すぐに電話で変更を求めて、差し替えさせましたが、たった数時間でもインターネット上に晒されると、あっという間に拡散し、瞬く間に間違った情報が流布してしまいます。常に目を光らせてパーセプション・マネジメントをしていないと、どこで足元をすくわれるかわかりません。
3.11後のような混乱時においても、やはりネガティブな情報がポジティブな情報より勢いよく広がりました。これを教訓として、汚染水対策に関しては、関係閣僚会議で国際広報室の下で海外メディアへの積極広報を行うということが決まったその日に、さまざまな詳細情報を載せた特設ページを立ち上げる一方で、難解なデータを読み込まなくても全体像がわかるようにまとめたファクトシートを作成。問い合わせを待つのではなく、こちらがリストを持っていた在京メディア約200人の電子メールアドレス宛に送り、更新する度に送り続けています。
安倍政権が立ち上がった直後には、『エコノミスト』誌に非常にネガティブな論説が出たこともありました。その時は、ちょうど同誌の編集幹部数人が近く来日するという情報を得てアプローチし、官房長官や幹部など官邸のいろいろな人物と会ってもらいました。その結果バランスが取れた日本特集記事が掲載されるとともにスーパーマン姿の安倍総理が表紙を飾ることになり、嬉しかったですね。