“ラボ”の意義、どう伝える?
私が訪ねた米国マサチューセッツ州の老舗地元紙、ボストン・グローブ紙で繰り返し言われたのは「新聞社なんだから、ビジネスをしつつ発信しろ」ということでした。グローブには実験を繰り返す部署「グローブラボ」があり、2人の男女がフロアの一角で新規ビジネスや報道の新しいあり方を開発していました。
対応してくれたのはアドリエンヌという女性。赤く染めた髪に、ブーツインした赤いパンツ、ミントグリーンのタンクトップに大振りのピアス。グローブは19世紀から発行を続けている超名門紙だけに、ぶっ飛んだ格好に驚きました。
「編集局のエリート記者がラボの横を通ると、あの人たちは何をしているんだろう、と私たちを怪訝な目で見るんです」とアドリエンヌ。朝日新聞メディアラボも、ほかの社員や外部の人から「何をやっているんだろう」「意味が分からない」と言われることがあるので、私は「 分かるよ!すごく!」と答えました。
「実験といっても、ビジネスになるのか。遊びだと思われないか」とアドリエンヌに聞くと、「かつて新聞には世の中の新しい情報がなんでも載っていると思われたが、今は違う。エッジが効いたことをやるのがメディアのプライドだし、発信をして地域の人を巻き込みながら次の稼ぎを考えることは新聞社ならではの手法だ」と返ってきます。
グローブの「ラボ」では、ネット上に投稿された食べ物の写真を時系列的に分析して、地元のどのレストランが混雑しているかを調査したり、データジャーナリズムのイベントをMITやハーバードなど地域の大学の協力で開催したりして、地元を巻き込んだ「発信」を繰り返しています。そのユニークさにひかれて購読を始めた読者も少なくないそうです。
もちろん、私たち朝日新聞メディアラボでやっていることも「遊び」ではありません。ただ、やっていることが伝わりにくいですし、収益にはすぐに結びつくものは少ないことから、誤解を受けることもあります。それだけに情報発信や広報は大切だと思っています。
私が日本に戻って、インターネットのニュースサイト「ザ・ハフィントン・ポスト」で「メディアの実験は成功するか」と題した記事を書いたのも、そうした思いからです。
新聞記者が書くような事実を伝えるニュース記事とは違う形で、考えたことを発信してみようと思ったからです(もちろんこのコラムも、発信の一つになれば良いな、と考えています)。
とはいえ、広報するのもむずかしいと感じています。このコラムを書きながら、複数の企業の広報担当者に話を聞いたら、「直接的な売り上げがたたない広報の仕事は社内で伝わりにくい」「ふわっとした部署だと言われる」という声が返ってきました。
外に発信する広報の仕事は、自分たちの会社が世の中でどう見られているか(社会の中でどういう役割を担うべきか)を時には営業のように考え、一般消費者や取引先の声をキャッチし、社内にも自社の情報を行き渡らせて会社をまとめる部隊――単なる宣伝とは違う仕事であることは、これまで記者として取材して分かっていたつもりでしたが、確かにその意義をバシっと説明するのはむずかしい。
新聞社として、新聞記事以外での発信方法をどんどん編み出していきたいです。特に、メディアである朝日新聞がやることは、ライバルにもなる他メディアは取り上げにくいので、難しいけどチャレンジングなテーマです。