山本:はい。でもAmazonを見てみると、彼らも最初、本を売り出しますよっていうときは、売れるモノを並べたわけです。でも彼らの場合、売れるものを並べていったら、「全部並んじゃいました」という状態になった。さらに彼らは、他の人たちまでそこで売れる仕組みを提供した。
この時点で壮大なルールチェンジが起こっていて、「list to sell」から、「sell & buy on list」というリスト上で売買する構造に変わるわけです。この変化は革命的で、売り手が売りたいモノを並べているっていうマーチャンダイジングと、リストの上で売買するっていう形に、ユーザビリティの大きな差があるんですよね。
さらに「Sumally」の場合は、「want」の人がモノにトラックされていることによって、売りたい人がその人たちに売りに行くことができる。ユーザーも「want」と言うことで、欲しいものを売りに来てもらうことができるという、購買活動を緩やかな外商状態にシフトさせることができるんじゃないかな、と。
廣田:潜在顧客が可視化されるわけですよね。この人が欲しがっているっていう人たちにだけコミュニケーションすればいいということですね。
山本:それをやるにはリストがまず必要で、リスト上で売買するという圧倒的に使いやすい形を持たせたうえに、さらにそれをソーシャルにやるというのが、「Sumally」がやりたいことのひとつです。そしてもうひとつは、データのところで、自主的にユーザーが「want」「have」を貯めていってくれたら、レコメンドの質も全然変わってくる。
無意識に作られる、進化したPOSシステム
廣田:いちいちレコメンドしようという意志がなくても、貯まっていく。無意識的に「want」「have」するだけでリストが精緻につくられていくということですね。
山本:それを僕らは、進化したPOSシステムと呼んでいて、「have」のデータは、現状のPOSに似ています。「want」はこれから何を買いたいかというデータになるわけですが、個別の商品に対して、このペースでアクションさせているサービスは他にはありません。
「Sumally」に登録されているアイテム数は現在、約130万点あるんですけど、全てにカテゴリとブランド、商品名の情報がついています。ですから例えば、今ナイキで一番「want」「have」されている商品は「FuelBand」ですよといったときに、「FuelBand」を「have」しているユーザーが「want」している自動車は何か、それが車種レベルでわかる。自社の顧客が何を欲しがっているか、このカテゴリだったら何が一番「want」されていて、何が持たれているのかが可視化されていく。もちろん逆引きもできて、自社の商品を「want」って言っている人が、何を「have」しているのかも見ることができるようになります。
ユーザーに楽しみを与えることでビジョンを実現
廣田:「Sumally」に最初にアクセスしてもらう時に、「みんなで、この場でモノのリストを作りましょう」とは言っていませんよね。「世界中のステキなモノを見つけましょう」と言っていて、最初のハードルを越させるようになっている。ユーザーは、リストをつくるためにやっているわけではなくて、違う形のエンタテイメントを楽しんでいます。「Sumally」のためにリストをつくっているっていう意識だったらやらないですよね。
山本:Facebookが「人物名鑑を作りましょう」と呼びかけても、みんなにプロフィール登録してもらえないのと同様で、そこには「あなたの友達とつながりましょう」というメッセージがある。「Sumally」について言えば「好きだけど、知らないモノ」に出会えるっていうのが、一番の価値になっていると思っています。
廣田:「Sumally」はユーザー自身の課題を解決することを一番の目的に始まったのか、ECとか今のルールを壊したいと思ったところから始まっているのか、どちらですか。
山本:それは、やはりユーザーオリエンテッドでユーザーに新しい楽しみを提供したいというのが出発点です。Facebookが広告の仕組みを変えたくて、ああいったことを始めたのかといえば違うのと同じだと思います。
廣田:結果、広告の仕組みが変わっちゃったっていうことですね。
山本:人が集まって、充実したリストができることによって、コマースの構造改革ができる。それをできるところまで行きたいっていうのが僕らの思っていることですね。
【「電通 廣田さんの対談」連載バックナンバー】
■takram design engineeringの田川欣哉さんに聞きに行く
・「自分で全部やってみたい人の仕事術」(前編)
・「自分で全部やってみたい人の仕事術」(後編)
■Sumallyの山本憲資さんに聞きに行く
・「リスクテイクする覚悟がある人の仕事術(前編)
・「リスクテイクする覚悟がある人の仕事術(後編)
■内沼晋太郎さんに聞きに行く
・「マージナルな場に飛び出す人の仕事術」(前編)
・「マージナルな場に飛び出す人の仕事術」(後編)※3月更新予定
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