社外文書の校閲――間違えたらアウト!の要素と対策

井上 孝夫氏(新潮社 校閲部長)

一般企業の社員の皆さんが校閲をするために

会社の内外に発表する文章。それに誤植があったらどうしよう、事実誤認があったらどうしよう。悩んでいる会社員は多いんじゃないでしょうか。

こんな時、出版社や新聞社の校閲者が「こうせよ」「ああせよ」と、専門的なアドバイスをしても実際の役に立たないことは想像できます。俺たちは、専門で日がな一日文章を読んでるわけじゃない、他の業務もある、接待もある、外を駆けずり回っていて落ち着いて文章を推敲したりしている暇なんか無いんだ。

こんなふうに感じられる向きもあるかと思います。しかし発表された文章を読む世間の人にとってはそんなことは知ったことではない。間違いがあれば「ああ、いいかげんな仕事だな」、事実の間違いがあれば「何も調べてないのか!」。

どうしたらいいのでしょうか。細かいことを言っても実践できませんから、大づかみに対策を考えてみましょう。

(1)文章チェックのために

言葉遣いの間違いを無くしたい。「そんな言い回しも知らないのか!」とは言われたくない。もっともな話です。それにはどうするか。

・言葉遣いを指摘する年齢層はどのあたりか?

これはかなり重要な問題です。恐らくシニア世代より上、50歳以上の年齢層を考慮すべきでしょう。彼らはいかなる根拠に基づいて誤りに気づき、指摘してくるのか。

人間というものは、若いうちに頭に叩き込んだ言語を基準として物を考えます。最も言葉を吸収する年齢(幼児期を除く)、恐らく10代~30代くらいに本やテレビや周囲の会話や、さまざまなものからインプットされた言葉が人間の言語批判の土台となるのです。

歳をとると覚えが悪くなるし、そもそも新しい言葉は若い人が使うものですから間違えない。若い人が使ったことのない、若干古い言い回しの誤りなどが、シニア世代の気に障るのです。

その対策としてお勧めしたいのは、彼らが若かった昭和(戦後)の作家の本を読むことです。そこで正統とされていた言葉遣いこそ、恐らくシニア世代の基本となっている言葉であり、それらを文脈と共に実感をもって味わうこと以上に、それらを身に付ける良策は無いと思います。

また文学者の文章は、その表現の豊富さゆえに、他のテキストよりも効果的だと考えられます。

難しく考えることはありません。司馬遼太郎、松本清張、池波正太郎、城山三郎、山本周五郎……今でも簡単に手に入り、興味を持って読める作家はたくさんいます。自分の好きなジャンルの本を見つけてください。

言葉はそれが生きて使われている文脈で読んでこそ身につくのです。これは受験で言う「基礎力養成」です。

・「日本語本」は役に立つか?
もうひとつ、昨今話題になる「日本語間違い集」的な本も、一応目を通したほうがいいでしょう。

実はシニア世代だって特別日本語に造詣が深いわけではなく、この種の本を読んで「その通りだ!」と思ったり、「そうだったのか、知らなかった」と思いつつ、前々から知っていたような態度を取ったり、ということをしているはずです。

本で取り上げられたトピックスは、気づかれる確率が高いと思った方がいい。これは「傾向と対策」です。

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宣伝会議 編集会議編集部
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