社外文書の校閲――間違えたらアウト!の要素と対策

(2)内容の調べはどうする?

これは専門の校閲者でも悩んでいる問題です。追求しだしたらきりのない問題なので、ここでは世間の一般常識に引っ掛かるような間違いを減らす方法を考えてみましょう。

・間違えては絶対にいけない要素は何か?
こちらを最初に押さえておくこと。考えてみましょう。

その文書にかかわる人の人名・年齢・肩書きなど。また企業名およびその周辺の重要情報。

これは直接被害が当人および関係者に及びます。意外に落とし穴が「故人」か否かの確認。存命中の人を「故・~」などとしては目も当てられません。

○商品の値段、その周辺の重要情報。
場合によっては損害が発生します。きちんとした情報源で、毎回確認すること。
○その他数値が示されているものの照合。
単純作業でも、間違えたらアウト。示されている意味がなくなります。複数人でチェック。
○差別的表現のチェック
これには簡単なチェック法はありません。まずはそれに関連した本、例えば『改訂版 実例・差別表現』(堀田貢得 ソフトバンク クリエイティブ刊)のような本を、とにかく頭から最後まで読むこと。何が問題なのかを把握して、初めて対応ができる問題だと思います。

差別語リストのようなものは無意味です。差別語を用いない差別表現も存在しうるのです。あくまでもその文脈でどうなのか、ケース・バイ・ケースで判断しなくてはなりません。自分で文章を書くとき、この表現で傷つく人がいないのか、常に配慮する必要があります。

・できれば間違えたくない要素。

○誰でも知っているような常識。
これは結構難しい。範囲がはっきりしません。今はネット検索があるので、厳密な正確さを追求しなければ一応はそれで確認できるかもしれません。「ウィキペディア」情報は信用ならない、という向きもありますが、それに替わる書籍による調べが簡単にできるかと言えば、それは不可能でしょう。

しかし、簡単な事実、例えば人名・地名(文字表記も問題となる)などは『広辞苑』でもかなり確かめられますし、三省堂などから出ているコンパクトな事典をいくつか用意すれば常識的なラインとしては万全でしょう。それ以外の要素は、実際に現場の必要に合わせて選ぶべきでしょう。

いずれにせよあまり大きな辞典は無駄になるかもしれません。

以上、大まかに説明したつもりですが、これでも大変なことではあると思います。しかし、言葉を世の中に発するということは、普通考えられているよりずっと影響や責任を伴うことなのですから、面倒くさがらずに一つひとつクリアしていくしかないのだと思います。


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井上 孝夫(新潮社 校閲部長)
1954年生まれ。東京大学文学部言語学科卒業。1976年新潮社入社以来、一貫して校閲部に勤務。文芸誌・芸術誌・週刊誌等の雑誌や、単行本・文庫などの校閲に携わる。著書に『世界中の言語を楽しく学ぶ』(新潮新書)。現在、校閲部部長(書籍部門担当)。宣伝会議が運営する「校正・校閲力養成講座(1日集中)」の講師を務める。

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宣伝会議 編集会議編集部
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