(左から)1月某日、宣伝会議本社にて。西内啓さん、田中幸弘さん、山本一郎さんによる鼎談はヒートアップのあまり、180分近くに及びました。
第一回「ビッグデータは幻想なのか?」(今回の記事)
西内さん、田中さんのプロフィールはこちらから
第二回「データサイエンティストって、ぶっちゃけどうなの?」(掲載中)
第三回「パーソナルデータで広告界の地殻変動は起きるか?」(掲載中)
データを意識し始めた広告業界は「腹の探り合い」状態
山本:2013年は「データと社会」というテーマについて、地に足のついた議論がされ始めた年でしたよね。何より、西内さんの著書『統計学が最強の学問である』がベストセラーになったっていうのは大きなトピックスだった。統計学を一般の人も使いこなせるんだ、というような議論をこれまでしてこなかったわけですからね。
西内:ありがとうございます(笑)。
山本:ずっとね、私もこのテーマで議論できる機会を待ってたんです。ようやくアドタイで実現したということで、今日は色々とお話うかがっていきたいと思います。
西内:こちらこそ、よろしくお願いします!
西内啓(にしうち・ひろむ)
1981年生まれ。統計家。東京大学医学部卒。東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、現在はデータに基いて社会にイノベーションを起こすための様々なプロジェクトにおいて調査、分析、システム開発および戦略立案をコンサルティングする。
山本:実際、西内さんは統計家としてデータを扱う現場のビジネスで、あー変わったな、と感じることとか、あるんですか。
西内:そうですね、最近は広告会社の方々とお仕事すると単純集計のデータを扱う際に、変な緊張感があったりしますよ。日本でデータ分析の関係者は30万人もいなかっただろうに、(自著が)30万部行き渡ってしまったので…(笑)。データ集計のステージを一段上げてしまったといいますか、妙な腹の探り合いがありますね。新しいことをやらなきゃいけないって皆分かってはいるんだけど、まだ実行の手立てがないので「こんな単純集計のデータ、どうかと思いますけどね。ハハハ」なんて言いつつ…。
山本:データを作る側よりも、読む側のリテラシーが格段に上がっていますからね。「このデータは本当に実態を表してるの?」と。だからビデオリサーチの地上波テレビ視聴率データは統計的に正しいのか、といった議論も再燃していますよね。というか、もう少し正しく測定する方法は模索できるだろう、と。データの読み方、使い方、作り方から、メディアの価値がわかるようになってきたのは大きな変化かなと。
西内:よく「平均やパーセンテージなどの集計の次に何を覚えれば良いですか?」と聞かれますけど、今まで円グラフを作ってた人たちが急に、横文字の複雑なツールなんかを導入しようとするとギャップがありますよね。そのギャップを埋める作業が必要だと今は思っています。
山本:そもそもビッグデータがビッグであるべきか、という話もある。しかも西内さん、「ビッグデータの旗手」みたいに呼ばれてるけど、実は西内さんはビッグデータを強く推しますとは言ってないんですよね(笑)。
西内:そうなんですよね、不思議なことに(笑)。
山本:「適正なデータの取り方と範囲さえ分かっていれば、必要とされるデータは揃う」という認知がやっと進んでいた段階で、どんな風に着地したらビジネスに役立つかがまだ見えていない。そのラグを乗り越えるためには、どんな努力が必要なんでしょうかね。
西内:そうですね。難しいのは、数理統計学の専門家とかデータマイニング、あるいは計量経済学の専門家をただ呼んできても、今あるデータに対して何を施せばいいのか、必要な判断はできないんですよ。本当は多変量解析とか、定量的な研究をしている経営学者が必要なんですが日本国内は少ないのが実情です。