磯部:今までのやり方が通用しなくなった時代は、これまで覚えたフレームに頼って生きていこうとする人にとっては、非常に厳しい環境変化ですよね。
だからある人たちは「広告は効かなくなった」とか「広告会社は儲からない業種になっていく」と騒ぎ立てたんですよね。テレビや新聞を見る人が減ったり、広告でモノが売れなくなったりするから、広告会社は利益が減って大変だろうとか。
でも、それは広告とか、日本の広告会社に対する浅い見方だと思うんです。その証拠に数字を見ても、実はシェア上位の大手広告会社は過去にないくらい非常に業績がいいですよね。
木村:そう。課題解決のための手法が広がったことをポジティブに考えれば、今の広告業界は今までよりもずっとエキサイティングだと思う。課題解決の手法がマス広告に限られていた時代に比べて、広告産業自体が大きく進化しているし、強くなっていると思う。
膨らんだのは「脅威」でなくて「機会」なんだよね。過去にあったフレームを学ぶだけではいい仕事はできなくなってしまっただけで。だからそういう風にポジティブに考えて楽しめる人が、ひとつめの求める資質だと思います。
磯部:なるほど。つまり、「フレームに頼らないで、クリエイティブな発想で課題解決を志向できる人」ですよね。
ちなみに、僕たちが書いた「ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる。」(宣伝会議)では、正解のない課題に対して、フレームワークに頼らない発想の方法を書いているので、参考になるかもしれませんね。
新しい職種が次々生まれる仕事。そこに求められる資質とは。
木村:あと、関連する変化で言うと、いま、この業界では新しい職種がどんどん生まれているような気がするよね。
コミュニケーションの根本的なスキルは変わらないけれど、メディアが増えたり、手口が多様化したから、そういう分野に積極的に進出していっている人はどんどんパワーアップしている感じがする。
磯部:たとえてみると、過去の広告業界がパンチだけで勝負するボクシングだとしたら、今はキックも寝技もなんでもありの異種格闘技みたいになったイメージですよね。
確かに僕も10年前と今では全く違う仕事をしている感があります。パンチ一本で誰にも負けないボクサーを目指す職人型のキャリアもあるけど、今は様々な技を組み合わせればもっと強いキャリアが生まれるんですよね。
木村:広告業界で具体的に言うとたとえばちょっと前までは、インタラクティブプランナーはデジタルの専門家、CMプランナーは映像制作の専門家だったけど、今は映像やデジタルメディアを駆使したインタラクティブコミュニケーションのプロが、クライアントのコミュニケーション戦略の責任を負うクリエイティブディレクターを張っていたりする。
このように10年前までは考えられなかったキャリアが次々生まれている。まずは、何かしら専門技術を身に着けることが第一歩なのだけど、それだけで一生食べていけるとは考えない方がいいということですね。
磯部:なので二つ目の求める資質は、「複数のスキルをマージしていける人」ですね。別の言葉で言えば、自分の仕事領域に固定概念を持たないで、新しいスキルに好奇心をもってダイブできる人ですね。
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