出版業界の未来は暗くても、本の未来は明るい
廣田:『本の逆襲』を読んで面白かったのが、「本」と書かれているところを「広告」に一括変換しても、すべて意味が通じるということなんです。
出版業界に本をつくって店頭に並べれば売れる時代があったように、広告もつくって流せば、商品が売れる時代があった。なので、広告をつくることで満足してしまっていたのですが、メディアが増え、世の中の情報量も増えたら、広告には「人を動かす」ことがより求められるようになって、2000年代初頭くらいから「コミュニケーションデザイン」という考え方が出てきました。
そして、広告業界で「コミュニケーションデザイン」ということを志向している人たちと内沼さんの問題意識には、通じるところがあるな、と。
例えば、AKQAというエージェンシーのチーフ・クリエイティブ・オフィサーのレイ・イナモトさんは「広告の未来は広告ではない」と話しているのですが、これって内沼さんが言うところの「出版業界の未来は暗いかもしれないけれど、本の未来は明るい」に通じるな、とか。レイさんの場合には、広告ではなくコミュニケーションの未来は明るいと言っているのだと思うのですが。
内沼:僕は当然、広告業界のことは一切考えずに書いているわけですが、そういう感じ方をしてくれるのはうれしいです。ツイッターを見ていると本を読んでくれた人が、廣田君と同じようなことを言ってくれていて、例えば「音楽でも同じことが言えるよね」とか「演劇でも同じことが言えるよね」といった意見を見かけました。読者の方たちが自分の領域に置き換えて読んでくれているのは著者として嬉しいことです。
廣田:広告と出版が同じタイミングで、同じような問題に直面していたというのは面白いですね。でも、大きな問題に直面していたからこそ広告業界にも出版業界にも、マージナルな領域での仕事が成立し得たというか。本をつくって店頭に並べれば売れるという時代ではなくなった。
広告をつくって流せば商品が売れるわけではない時代になっても、仕組みの内側にいる人は、その仕組み自体をなかなか壊せない。でも、そこに問題があると気づいた人がその仕組みの中から外れて、仕事を始めた。だからマージナルな場に新しい仕事がつくられていったのではないか、と。
内沼:みんな「出版の未来は暗い。先が見えない」と言うけれど、それは今までやってきた業界の仕組み、やり方の延長に未来が見えにくいだけであって、本そのものに未来がないわけではない。それが業界の中にいる人たちは、従来の仕組みの中で仕事を続けているので、全てがだめになったと感じてしまう。
でも歴史を振り返れば、本だって広告のコミュニケーションだって、どんどん作り方や売り方は変わってきたはずで、ある時点での仕組みが未来永劫続くということはあり得ません。
【「電通 廣田さんの対談」連載バックナンバー】
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