今回から6回にわたり、コラムを担当します藤田康人です。現在は2007年に設立した、マーケティングコンサルティング会社のインテグレートの代表取締役CEOという立場にありますが、それ以前は新卒で味の素に入社し、長年、事業者側でマーケティングの実務に携わってきた経験があります。
このコラムでは事業者側、エージェンシー側双方でマーケティングに携わる中で、感じてきたことを書いていきたいと思います。
私はインテグレートにて「クライアントが直面する “ マーケティング課題 ” 解決の道筋を探る」という様々なプロジェクトに参加してきました。しかし多くの企業を見てくる中で、批判を覚悟で極論を言えば、製造業を中心とする日本の企業はマーケティング活動で課題を抱えているのではなく、そもそも「マーケティング」という機能自体が存在していないのではないか、という思いを抱いています。
日本でマーケティングが進化しなかった理由
20世紀「JAPANブランド」が世界を席巻した背景には、日本企業の弛まぬ技術・機能革新があったことは疑いのない事実です。しかし幸か不幸か、これまで日本企業が特に国内市場でビジネスをする分には、「マーケティング」は必要なかった。
高度経済成長期の日本は、消費者の需要が爆発的に拡大し続け、マス広告を打ち、新製品が発売されたことを知らせれば、それだけでモノが売れていったからです。
テレビのキー局と新聞大手全国紙が大きなシェアを占める日本市場では、マスメディアのリーチ力は圧倒的で、企業は消費者の情報接触行動や購買行動を細かく分析し、マーケティング戦略を綿密に設計する必要はさほどありませんでした。
一方で人種、言語、宗教などが多様な人たちが集まる欧米諸国では、メディアも細分化し、日本のようにマス広告を使って拡大する需要を効率的に刈り取るというモデルが通用せず、必然的にマーケティングが進化を遂げていったのです。
しかし商品の機能競争は行き着くところまで行き、市場は成熟化。さらに消費者の情報収集経路が多様化したことで、メディアの影響力も分散化し、マス広告だけが商品を売るための絶対的な解ではなくなりつつあります。またグローバル化が進み、国内においても高度なマーケティングを実行するグローバル企業の進出を受け、日本企業も変革をせざるをえない環境にあります。