広告だけがマーケティングではない
日本では、マスメディアや一般ビジネスパーソンが「マーケティング」という言葉を使う場合、多くはコミュニケーション(広告・宣伝、集客・販促)の手法やテクニックを指しています。
そこではコミュニケーションだけでなく、リサーチや商品開発、売り場づくりなどのプロセスが、ビジネス全体のマネジメントによって有機的に連携していくといったことまでは、あまりイメージされていません。
しかし、世界のグローバル企業におけるマーケティングの統括責任者である CMO(Chief Marketing Officer)やトップブランドのマーケターの間では、もはやコミュニケーション中心の「狭義のマーケティング観」は通用しなくなっています。
マーケティング学界の世界的権威フィリップ・コトラー教授は、マーケティングの定義を以下の様に説明しています。
「個人と組織の目的を満たすような交換を生み出すために、アイデアや財やサービスの考案から、価格設定、プロモーション、そして流通に至るまでを計画し実行するプロセス」
マーケティング力に定評のある多くのグローバル企業では、マーケティング部や事業部といった名称の組織が全てのマーケティング活動を統合的にオペレーションし、ブランドマネジメントチームが調査から商品開発、生産、マーケティング・コミュニケーション、販売に至るまで一括して有機的に実施、運営していくスタイルが一般的です。
しかし、日本では商品開発とマーケティング部門と宣伝部門が別々に存在していたり、事業部とは別の営業部門がマーケティング予算と権限を持っていたりと、組織形態が縦割りになっている企業が少なくありません。
多くの企業では、当たり前の様に数年でマーケティングの責任者や担当者が異動してしまう中で、長らく戦略の継続性をコンサルティング会社や広告会社などの外部パートナ-に依存し続けてきました。
マス広告全盛期にはそれでも十分に機能していたのかもしれませんが、マーケティングソリューションが日々進化する今の時代においては、企業内にCMOのような強力な権限と高いマーケティングスキルを持つ人材が不在では、外部への正しいディレクションもままならず、いわばマーケティングという機能自体が存在していないとさえ言える企業が日本には少なくないのです。
日本企業にCMOは必要か?
しかし、私は欧米のグローバル企業のようにマーケティング部門に中央集権的なCMOという役職を置き、縦割りの組織を変革しなければマーケティングが機能しないとは思っていません。
本コラムを通じて提案したいのは、緻密なマーケティング戦略に打ち勝つ、日本企業らしい独自のビジネス・プロセスまで含んだマーケティングの仕組み(売れ続ける仕組み)づくりです。
この仕組みは、映画やドラマのシナリオのようなものです。
さまざまな社内外のステークホルダーが関わるマーケティング活動では、消費者だけでなく全てのステークホルダーがwin‐winの関係を構築でき、参加したくなる全体シナリオ(設計図)を描くことが必要なのです。
連載では「マーケティング・ストーリーを軸にした、売れ続ける仕組みづくり」を提唱しつつ、悩める日本企業が今後、進むべき方向性についてお話していきたいと思います。