50年に1度の伝説の開校「サン・アド 表現の学校」開催レポート

1964年、開高健、山口瞳、柳原良平らサントリー宣伝部出身者が中心となって創業されたサン・アド。現在まで、トップ広告プロダクションとして、50年にわたって日本の広告表現を牽引し続けてきた。

サン・アドの 50年の歴史は、日本人の「表現」への挑戦だった。創業の言葉として、開高健氏は「アメリカ直輸入の理論や分析のおためごかしを排します。あくまでも日本人による、日本人のための、日本人の広告をつくり、日本人を楽しませたり、その生活にほんとうに役にたつ、という仕事をするのです」と述べている。

半世紀にわたる「表現」の蓄積は膨大なものとなったが、「業は体で会得するもの」というサン・アドの社風から、そのナレッジやノウハウは形として存在していなかった。そこで、50周年の節目に、同社はこれまで社内で培われてきた「表現」の考え方、作り方を、サン・アドの現役クリエイターが自ら語り下ろし、伝えることを試みる。

その舞台は、50年に一度の特別講義として開校した「サン・アド表現の学校」。講義テーマは<色><物語><質感><デザイン><写真><演出><コピー>など。サン・アドの制作物に通底し、そのトーン&マナーを生み出す源流となる感覚・感性を言語化し、伝えていく。

今年1月には講義の一部が特別講座として一般公開され、盛況のうちに終了した。行われた4つの講義の一部をここで公開する。

(1)写真:「 写真とは不完全なものである」

葛西薫氏(サン・アド)×ホンマタカシ氏 モデレーター:伊藤総研氏(以下同)

葛西薫氏とホンマタカシ氏の講義は「写真」がテーマ。上田義彦氏が撮影したウーロン茶の広告をはじめ、写真はサン・アドの広告で常に大きなファクターを占めている。講義では、葛西氏がプライベートで撮影した写真、手がけてきた広告写真、ホンマ氏が最近撮影したポートレートなど、様々な写真とその撮影時のエピソードが紹介された。「写真」というジャンルの中で広告写真がどのような存在なのかという議題をめぐり、話が交わされた。

(2)コピー:「コピーこそ、人間らしくやりたいナ♡」

岩崎亜矢氏(サン・アド)×一倉宏氏(一倉広告制作所)

岩崎亜矢氏は、この講義を実施するにあたってサン・アド社内から「私のベストコピー」を募集。トークショーの会場には、選び出されたコピーがずらりと貼り出された。開高健さんのトリスウイスキーの広告コピー「人間らしくやりたいナ」のようにお酒が主な商品だったからこそ、共感性に富んだ「言葉」がサン・アドの背骨になった、と一倉宏氏は指摘した。広告の原点である「ワンキャッチ、ワンビジュアル」を実現するために、いまのコピーは、コピーライターはどうあるべきかが語られた。

(3)デザイン1:「デザインとは感じるものである」

高井薫氏(サン・アド)×細谷巖氏(ライトパブリシティ)

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独特の会話のテンポに笑いが絶えなかった講義。「ふつうの精度を上げる、やさしいの精度を上げるのが自分のデザイン」とライトパブリシティの細谷巖氏は独自のデザイン哲学を展開した。クライアントとの関係値のつくり方、デジタル化とデザイン、ロングライフデザインなどのさまざまなテーマが、互いの仕事を例に挙げながら語られた。

(4)デザイン2:「コピーが読みたくなるデザインを!」

安藤隆氏(サン・アド)×前田知巳氏(フューチャーテクスト)

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コピーライター2名による対談は、「コピーとデザイン」をテーマに行われた。広告を制作していく過程で、コピーライターとアートディレクターがどのように関わっているのか。ロングライフ広告が多いサン・アドは、コピーライターとアートディレクターがチームで長くクライアントと仕事を共にする。「10年つづけて積み上げていく、時間と共に育てていく広告がサン・アドにはある。そうした仕事はクリエイターの胆力によるもの」と前田氏。それは「サン・アド的な仕事への向き合い方、戦い方」なのではないかと指摘した。

4月以降、全11講義の内容を収録した『サン・アド 表現の学校』がブレーン別冊として発売される。責任編集は雑誌『BRUTUS』や書籍の企画・編集などで活躍するフリーの編集者、伊藤総研氏。アートディレクションは寄藤文平氏が担当する。

作品集という形ではなく、サン・アドという日本のトッププロダクション一社の「表現プロセス」にフィーチャーした初の本。広告クリエイター、表現をすることを志す人々にとっては必見の「教科書」となるはずだ。

ブレーン別冊 『サン・アド 表現の学校』

サン・アド 50周年実行委員会+伊藤総研 責任編集+ブレーン編集部 監修
本体:1400円 B5判

講義一覧:〈コピー〉〈デザイン〉〈写真〉〈文字〉〈現場〉〈色〉〈物語〉〈演出〉〈質感〉〈エロス〉

補講:〈サン・アドの仕事場〉〈サン・アドの卒業生〉〈サン・アドのイラスト〉ほか

出演者(講師):安藤隆、葛西薫、高井薫、岩崎亜矢(サン・アド)、細谷巌(ライトパブリシティ)、ホンマタカシ(写真家)、一倉宏(一倉広告制作所)、前田知巳(フューチャーテクスト)ほか

発売:4月以降

本書刊行をご支援いただいている企業の皆様(五十音順):サントリーホールディングス株式会社/株式会社視覚デザイン研究所/株式会社トリニティアーツ/株式会社 そごう・西武/大和ハウス工業株式会社/トヨタ自動車株式会社/株式会社トーン・アップ/パナソニック株式会社/株式会社村田製作所/株式会社モリサワ/株式会社ユナイテッドアローズ/Inmagine123RF株式会社

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