前回記事「「女子」から「女性」へ〜AKB大島優子卒業に見る、“大人”であること〜」はこちら
車も持たない、海外にも行かない、消費欲もない……とメディアではよく言われていますが、果たしてそれは本当なのでしょうか。「事実は欲望がないのではなくて、上の世代の人たちが“欲望”と思っているものが、若い人たちのそれとは違っている」と話すのは、ベストセラー小説『野ブタ。をプロデュース』作家であり、今年30歳を迎えた白岩玄さん。
AKB48、婚活、アニメ「ONE PIECE」、W杯、半沢直樹、ミスチル……と、現代の若者が“ハマる”モノ・コトには、共通するツボがあると断言します。
「最初に欠落があり、そこに何かがハマることでコミュニケーションは起こっている」――。この連載では、「今、人気&話題になっているものが、なぜ支持されているのか」について、30歳小説家視点から解析していきます。
【連載】
第1回 「女子」から「女性」へ〜AKB大島優子卒業に見る、“大人”であること〜
第2回 愛情は“型”の中にある 〜『笑っていいとも!』に見る、マンネリの中にある愛〜
第3回 「ウソ」と「仮装」はどちらがモテるか? 〜エイプリルフールに見る、モテないなら参加しないという空気〜
第4回 「自分」を見つけた人の強さ 〜夏目三久アナの人気に見る、「自分になること」に対する憧れ〜
白岩玄(小説家)
継続から生まれる「安心感」
お昼の長寿番組である『笑っていいとも!』が本日、三十二年の歴史に幕を下ろす。
あらためて振り返ってみると、いいともは現在のバラエティーでは数少ない、きちんとした「型」のある番組だった。
まずオープニングがあり、テレホンショッキングがあって、クイズやゲームなどが続き、最後はいつも告知やお知らせをしたあとで、「明日も観てくれるかな?」と同じ終わり方をする(昔は違ったのかもしれないが、少なくとも僕が知る限りはそうだった)。マンネリだと散々言われていたのも、そうした一定の形がずっと続いていたからという面もあるだろう。
毎日同じことを続けることで一つの型ができていく。わかりやすいところで言えば、これは恋愛関係も同じだろう。付き合ってからしばらく経つと、その二人の関係の型のようなものが生まれる(ラブソングだったらこれを「二人のカタチ」とか言いそうだ)。
型ができることのいい面は「安心感」があることだ。しかし安心感は同時に刺激を奪うので、下手をすればマンネリを感じるようになってしまう。うまく改善されなければ、そのまま別れてしまう人たちも決して少なくはないだろう。今はカップルはもちろんのこと、夫婦でもマンネリが過ぎれば、修復がきかなくなって離婚する人がいる。
でも一昔前は、たとえマンネリでも離婚なんてまずできなかったのだ。決められた生活の中でどうにかやっていくしかなかった。そしてそうであるがゆえに、そこには代わり映えのしない毎日をうまく乗り切っていくための工夫があったと思うのだ。
『いいとも』でのタモリさんも、きっとそんな感じだったのではないか。僕は『いいとも』を毎日観るような熱心なファンではなかったから断片的な記憶で言うけれど、タモリさんは番組の型という制約の中で、自分や周りの人たちが楽しめる工夫をいろいろとしていたと思う。
たとえマンネリだとわかっていても、そのマンネリとうまく付き合っていくようなやり方をしていた。それはたぶん目先の利益を得るために闇雲に面白さを求めてしまえば、番組がいつか破綻してしまうことが目に見えていたからだろう。
「マンネリは解消されなければいけない」が優勢な世の中では、マンネリを前提とした代わり映えのしない日常を楽しむ工夫もまた失われていくかもしれない。新しいものや興味を引くものを良しとして、ずっと続いている「あまり面白くないもの」に冷たい視線を向けること。そういうのはどこかで常にワクワクやドキドキを求めているわけだから、言ってしまえば「恋しかない世界」みたいなものだろう。
もちろんそれでもいいのだけれど、恋は長くは続かないし、いつか必ず違うものを求めるようになる。そしてそれは煎じ詰めれば、人の気持ちを内側から温めたりはしないのだ。
番組がいよいよ終わるとなったときに、あれだけ豪華なゲストが次々と出演を快諾したのは、番組とタモリさんがいかに愛されていたかを物語っている。結局のところ、マンネリが含まれた継続的なものの中にしか本当の愛情は生まれないのだ。そしてその愛情をたくさん生めるだけの型を長年守ってきたタモリさんは、やはりすごい人だと思う。
みんなから愛される人は、続けることの大切さをよくわかっているということかもしれない。
若者攻略本。
AKB48、婚活、アニメ「ONE PIECE」、W杯、半沢直樹……若者が“ハマる”モノ・コトには、共通するツボがあった!ベストセラー小説『野ブタ。をプロデュース』で、若者のリアルな心理を描いた30歳作家が、“欲しがらない世代”の欲望を解説します。
1983年、京都市生まれ。高校卒業後、イギリスに留学。
大阪デザイナー専門学校グラフィックデザイン学科卒業。
2004年『野ブタ。をプロデュース』で第41回文藝賞を受賞し、デビュー。
05年、同作は芥川賞候補になるとともに、日本テレビでテレビドラマ化され、
70万部を超えるベストセラーとなった。2009年『空に唄う』、2012年『愛について』を発表。
今年3月28日、初の実用書となる『R30世代の欲望スイッチ~欲しがらない若者の、本当の欲望』を発表した。
【連載】
第1回 「女子」から「女性」へ〜AKB大島優子卒業に見る、“大人”であること〜
第2回 愛情は“型”の中にある 〜『笑っていいとも!』に見る、マンネリの中にある愛〜
第3回 「ウソ」と「仮装」はどちらがモテるか? 〜エイプリルフールに見る、モテないなら参加しないという空気〜
第4回 「自分」を見つけた人の強さ 〜夏目三久アナの人気に見る、「自分になること」に対する憧れ〜