Data Democratizationがマーケティングを変える ―「Adobe Digital Marketing Summit2014」レポート(前篇)

究極の“自分ごと化”はパーソナライゼーション

カンファレンスには米国企業のマーケターが多く登壇したが、共通していたのは「Customer Focused」の視点だ。カスタマーに主導権のある時代、いかに真にカスタマーを中心に考え、カスタマーにとって最適な「Experience(体験)」を提供するかが、活動の成否を左右する。

情報洪水の中にあり、ブランドの選択肢も多様にある今の時代、カスタマーのブランドに対する関心、さらにはロイヤリティを維持し続けるのは難しい。

登壇者の一人、米国の小売業SEARSのSai Koppaka氏(DVP, Customer Analytics , Sears Holdings Corporation)は「なかなか注意をひきつけられないカスタマーに対して企業から歩み寄り、いかに“Rerevance”をつくっていけるかが大事」と話した。

日本でもRerevanceを醸成し、いかに「自分ごと」として受け止めてもらえるかが大事と言われるが、究極の「自分ごと化」を実現するのが、パーソナライゼーション。それゆえ、多くのセッションで「いかにしてパーソナライゼーションを実現するか」がディスカッションのテーマとなっていた。

データの先に、「人」を見る

そしてパーソナライゼーションを実現する上で必要なのは、いかにカスタマーのことを深く理解できるか。そこに、データを活用の意義が出てくる。データの先に、見据えるのは一人ひとりのカスタマーの姿。

クリック率、コンバージョン率・・・・・・データをデータとして捉え、表面的にその数字を追うのではなく、「Customer Focused」の視点に基づき、最適なエクスペリエンスを提供するために、データを活用する。複数のセッションを通じ、そんなマーケターたちの姿勢が明確に見えてきた。

心を動かす“Experience”をつくる

適切なターゲットに適切な広告が配信されれば、パーソナライゼーションの目的が果たせるわけではない。いかに良質なカスタマーエクスペリエンスを創造できるか。企業から投げかけたメッセージがカスタマーの心を動かすような、魅力的な「Experience」を生み出せるかが鍵。それゆえセッションの中では、CCO(Chief Customer Officer)、CXO(Chief Experience Officer)といった新たに登場した役職についての話題も出ていた。

初日の基調講演に登壇したアドビCEOの Shantanu Narayen氏も「ブランドとカスタマーとの間に、個人的なつながりをつくれるかが大事」と話し、エクスペリエンスの重要さに言及していた。

「私たちがパーソナライゼーションによって、実現したいこととはカスタマーの目の前に広告を突きつけることではない。より良いエクスペリエンスをつくることだ」。そう話したのは、米国のジュエリーブランド「Alex and Ani」のRyan Bonifacino氏(vice President, Digital Strategy,Alex and Ani,LLC)だ。

“Creepy”と思われないパーソナライゼーション

では、「良いエクスペリエンス」とはどのようなものなのか。

前述の「SEARS」のSai Koppaka氏はディスカッションの中で、自身が「SEARS」に入社した直後に、その店舗に足を運び、自分が求めている商品のコーナーまで、なかなかたどり着けずに苦労した話を紹介。

「オンライン上でも、ユーザーはこのような不便さを感じている。その不便を解消し、先回りして必要な情報を提供することが、良質なエクスペリエンスの基盤になる」と話した。

パーソナライズドされた適切な体験の提供がマーケティング活動の成果を高める。この点については、多くのマーケターたちの認識は共通していた。

US Bank、Alex and Ani、Lenovoなどのマーケティング担当者が議論したセッション。デジタルマーケティングがカバーするパーソナライゼーションを目指す活動は、ディマンドジェネレーション(短期的、売上につながりやすい活動)であり、それとは別に長期的な視座でのブランディング活動も必要で、その投資配分をどう考えていけばよいかなどが議論された。

US Bank、Alex and Ani、Lenovoなどのマーケティング担当者が議論したセッション。デジタルマーケティングがカバーするパーソナライゼーションを目指す活動は、ディマンドジェネレーション(短期的、売上につながりやすい活動)であり、それとは別に長期的な視座でのブランディング活動も必要で、その投資配分をどう考えていけばよいかなどが議論された。

一方で、たびたび議論にあがったのがパーソナライゼーションを実現する中で、カスタマーから「Creepy(気持ち悪い)」と思われてしまうのではないかという課題だ。企業からのアプローチはRelevantであっても、Creepy(気持ち悪い)と感じられては、意味がない。

US BankのDeepak Nair氏(Head of Digital Intelligence,US Bank)は「パーソナライゼーションとは、カスタマーが必要とするであろう情報“しか”目に触れないようにすることではない。私たちUS Bankの実店舗では、来店したお客様と対話しながら、お客様が何を求めているかを察知し、対応をしていく。オンラインでも同様の“体験”を提供できるようにすることが、目指す目標」と話した。

あくまで、適切な「エクスペリエンス」に焦点を当てれば、カスタマーから気持ち悪いと思われないパーソナライゼーションが実現するという考えだ。

From Customers to People

日本のマッキャンエリクソンでCEOを務めていたこともあるMichael Mclaren氏。カンファレンスに参加をしていた同氏に、会場でインタビューをした。

日本のマッキャンエリクソンでCEOを務めていたこともあるMichael Mclaren氏。カンファレンスに参加をしていた同氏に、会場でインタビューをした。

「Customer Focused」や「Customer Experience」の議論の中で、強く感じたのがCustomerと向き合う際のマーケターの視点の変化だ。アドビとグローバル・プレミア・パートナー契約を締結し、本カンファレンスのスポンサーの1社でもあるMRM//McCanのMichael Mclaren氏(Global President, MRM//McCann)に聞いた、マーケティングの6つの変化の指摘が、的を得ていてわかりやすい。MRM//McCannはマッキャン・ワールドグループの傘下にあるデジタル&CRMマーケティングサービスに特化したエージェンシーだ。

Michael Mclaren氏が挙げたのは①Cutomers➢People、②Communication➢Experience、③Digital➢Integrated、④Fragmented(細分化)➢Seamless、⑤Multi-Channel➢Omni-Channel、⑥Real Time➢Predictive(予言的な)の6つの変化だ。

「From Cutomers to People」。データの先に人を見る。さらに、パーソナライゼーションの実現を目指していく…。米国のマーケターたちが目指す方向性が、この一言に象徴されていた。

「Adobe Digital Marketing Summit2014」レポート
(前編)Data Democratizationがマーケティングを変える
(後編)米国マーケターが目指す先は、パーソナライゼーションの実現

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