安藤美冬さんに聞きに行く 「展開型のキャリアで道を切り拓く人の仕事術」(後編)

一歩踏み出す勇気を

廣田:企業の製品の広告やブランディングを依頼されたときにも、その製品自体そのものから一度離れてみて、その企業がそもそもどんな目的で存在するのかまで遡った上で、改めてその製品の担う役割を見つめなおして考えると、ヴィジョンがはっきりと見えて、その製品自体に込められた可能性が広がり、より視野の広いアイデアを提案できることがあります。

これも、企業を一人の「人間」と思ってその人柄を改めて見つめなおして考えてみると、安藤さんがおっしゃっているように、実は今やってること以外にも、他にもっといろいろやってみていいよね、と気がつけるということに近いと思います。何故この企業が、こんなことをやっているのか?と、一見変わった活動に見えることも、実は筋が通っていたりすることがあるわけですよね。

多角化経営も、多角化すること自体を目的とするのではなく、本来の目的をシンプルに突き詰めた結果だと上手くいくのでしょう。その人の振る舞い、つまり企業にとっての事業のあり方って、企業の「らしさ」みたいなところから出てくる自然なものなんですよね。それをつい新しいこと、とかすごいとか言ってしまいがちです。

安藤:新しくはないですが、手段は多様になっています。昔は商店街の一角で営んでいた商売を、今はインターネットを使えばグローバルに展開できます。そう考えると私は、何かを始めようと思いついたらどんどんやればいいと思うんです。そのときに躊躇して、その一歩を踏み出す気持ちを阻むのは、失敗したらどうしよう、とか、世の中の空気や、会社や仕事仲間への遠慮がマインドブロックになるんです。

でも、遠慮するなら、しなくて良い範囲でやればいい。本業に差し支えない終業後や週末に、お金をもらうのが気になるならプロボノやボランティアでもかまわない。こういう風に言うと、私が成功しているから、マインドが強いから、と言われます。そうではなくて、どんなに成功した人でも最初はゼロからスタートしていて、踏み出す勇気をもっていたから結果につながっているんです。私もこうして発信しながら、日々実践しようとしています。

求められていることが何かを考え、指名される仕事をする

廣田:安藤さんは、営業で押しつけていくタイプではなくて、頼む側が安藤さんのことを調べて依頼してくるところが素晴らしいなと思っていて、企業も、自分から積極的に目立ちにいくより、良いお客さんに、向こうから来てもらえるような存在になりたいと思っているところが増えてきています。

広告は「俺のことを好きになってくれ」と声高に叫ぶ表現なので、下手するとうるさいと思われがちです。そこを自然に「あの人とつきあいたい」と思われる会社もあります。そのように自然に人が集まってくるのは、やっぱり日々実践して実績を積んだり、自分の言葉で発信しているからなんでしょうか。

安藤:仕事がなかったときは、押し売りするつもりはなくても、そんな雰囲気はあったと思います。失敗もたくさんしましたし、場合によってはぐいぐいやったこともあるかもしれません。

自分のことはさておき、周りのことで言うと、コピーライターであり、20代を代表するカリスマブロガーであるはあちゅう(伊藤春香)さんは、意識しているかどうかはわかりませんが、何か仕事を頼みたくなるような仕掛けを随所にされています。企業が彼女に求めているのはブログによる拡散力なので、そこを外さず、つい数時間前にあったことをすぐに更新したり、毎日コツコツ応えています。やっぱり、うまくいっている人にはそういうところがあって、私もそこは自覚しようと思っています。

例えば、大学の仕事でいえば、求められているのは「広報」だとわかっているのでそこは徹底的にやっています。何か依頼が入れば、自分に何が求められているのか考えます。独立したばかりのころはよくわからなくて、外したこともあると思います。でも、求められているものがわかったら、毎日コツコツやる。これは、さぼったら自分より優れている人がたくさんいるとわかっているので当たり前のことです。「ここを外してはいけない」というポイントの見つけ方は、失敗の中から自覚したんだと思います。

廣田:仕事って「おかわり」が来るのが一番ありがたいです。ソーシャルでのつながりができて、仕事の流れや生まれ方も変わってきました。より指名しやすい形になっているので、指名で仕事が来るということは、求められているものに応えられた、ということだと思います。

安藤:はい。理想ですよね。指名が来るということは、クライアントさんにとっても選択肢の中から、「この人しかいない」ということで来るので、お互いにハッピーなことです。

次ページに続く 「やっと自分の街に帰ってきた、そして次の冒険へ」

【「電通 廣田さんの対談」連載バックナンバー】
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