物語性の強いコンテンツとの相性の良さ
公演型の謎解きイベントはこのような特徴をもっていますが、これは何を意味するのでしょう。
時限爆弾ひとつで物語をもたせることができますが、これに既存のコンテンツを加えてみたらどうなるでしょうか。
コナンや金田一少年がそばにいたら。
はたまた ダース・ベイダーやエージェント・スミスが薄笑いを浮かべていたら。
参加者は、名探偵の助手やレジスタンスとなって爆弾に挑むことになります。
コンテンツのファンにとってはこの上なく魅力的なシチュエーションですし、
新作映画やアニメ化などの強力なプロモーションとなりえます。
参加者は、作品中の登場人物や世界観、設定に深く入り込み、
自らが作品に登場するかのような体験を味わいます。
物語性の強い、小説、コミック、アニメ、映画、ドラマなどのプロモーションとして強力な手法です。
その反面、謎の要素が物語や世界観から乖離していると、参加者が「醒めて」しまい、満足度やプロモーション効果が激減してしまいます。
前回触れた「回遊型」のイベントのケースとも共通していますが、謎や演出、構成には細心の注意と工夫が必要です。
「あんたバカぁ?」と言われたい参加者が続出!
では、いくつか事例を紹介しましょう。
2008年5月に、E-Pin企画により開催された「ひぐらしのなく頃に」とのタイアップ「夢流し編」を皮切りに、数多くのタイアップ謎解き公演が開催されています。
2011年11月初演の「ある使徒からの脱出」は、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」とのタイアップ作品です。
閉園後の富士急ハイランドで行われたこの公演は、アニメと同じ音楽、声優を使用した演出が好評で、以後のタイアップ公演に大きな影響を与えました。
参加者は、主人公たちと同じ組織の新人職員となり、使徒(敵)に襲われた施設から無事に生還することを求められます。
公演日によっては雨が降ったり濃霧が立ち込めたりした暗い遊園地を走り回って,
脱出経路を探します。
園内には作品中に使用された BGMが鳴り響き、登場人物の声で残り時間が告げられます。
最終チェックポイントの女性スタッフは、間違った解答には登場人物の口癖「あんたバカぁ?」で対応し、明らかに間違った解答でチャレンジする参加者が続出しました。
このほか、作品にちなんだ言葉を使用したり、富士急ハイランド内の展示物を使用したり、世界観とストーリーを強く取り入れた作品です。
その後、サンフランシスコや台湾でも再演され、好評を博しています。
余談ながら、筆者にとって、制作に関わり、全公演のスタッフも務めた思い出深い作品です。
翌2012年には、コミック「宇宙兄弟」とのタイアップ作品「月面基地からの脱出」が、全国の Zepp で開催されました。
初めての全国ツアーであり、謎解きイベントの規模が急拡大した時期です。
キャッチコピーの「酸素、残り1時間」で分かる通り、隕石で酸素生成装置が故障した月面基地から生きて帰るのが目的です。
物語性が非常に強く、ひとりでも多く生き延びるためにどうすればいいかを問われます。
エンディングで涙した参加者も多い作品です。
2012年11月には、「リアル悪の教典ゲーム」が、小説「悪の教典」の映画化にあたってのプロモーションイベントとして開催されました。
内装や小物がとても丁寧に作りこまれており、舞台である高校の教室にいるのではないかと錯覚してしまうほどでした。
殺人鬼の魔の手から逃れるのが目的ですが、小説/映画の世界観を見事に表現していて、原作の購入や映画の視聴への誘引はとても強いものがありました。
また、クラスの掲示板が用意されており、事前に登場人物の行動や思考が把握できるという仕掛けも良い効果を生みました。
ARG(Alternative Reality Game)の要素を絡めつつ、O2O施策を打っています。
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