阿部真大さんに聞きに行く 「組織に属しながら自由に働く人の仕事術」(前編)

時代の変化によって、「変人」が受け入れられはじめた

廣田:1990年代から社会構造が変わって、組織のあり方も変化してきたということですが、どのようなきっかけがあって、変わったのでしょうか。

阿部:端的に言うとグローバライゼーションで、資本と人の流れが流動化したことが大きな要因です。

日本が戦後経済を復興させたのは、安い賃金で長時間労働をして勤勉に質の高い自動車を作り続けたからです。

その後、経済的に成長し、賃金が上昇していくと製造業は安い労働力を求めて他の新興国へ移り第三次産業が主流になっていきます。それまで求められていた均質な肉体労働の必要性が低下し、気が利くとか、面白いアイディアを持っているといった知識集約型の労働が経済を牽引するようになります。

これが産業構造の転換で、そのタイミングは国によって違います。

廣田:「ほしいものが、ほしいわ。」っていう糸井重里さんのコピーが出てきたり、時代の変化とともに広告の手法も変わったんですよね。

注目を集めることができれば、商品の良いところを強調すれば物が売れるという時代ではなくなってきたタイミングだと思います。

廣田周作(電通 プラットフォーム・ビジネス局 開発部 コミュニケーション・プランナー)

廣田周作(電通 プラットフォーム・ビジネス局 開発部 コミュニケーション・プランナー)

2000年代には広告業界にもコミュニケーションデザインという考え方が出てきました。単純に広告をしていてもモノが動かないので、戦略PRの手法が脚光を浴びたり。いかに世の中の空気を作りながらそこに商品をからめるか、あるいは、ブランドも広告で伝えるだけではなく、それを開発している社員の振る舞いや行動を変えること自体がブランド戦略上重要になってきたり。新たな考え方が必要になってきました。

広告会社も、メディアを販売する部署と営業やクリエーティブの部署が縦割りになっていたところを、その関係性を崩して横断するような視点でストーリーを作らないと広告効果が出ないということが起こっています。

そういう意味で広告会社は消費のあり方の変化に対応して体制を変えていて、電通は部署の名前が変わりまくるんですけど(笑)、それは消費者の動向に合わせているところもあって、最近はその動きがより早くなっている気がします。

根幹の部分には筋の通った電通のカルチャーはあると思いますが、働き方で見るとすごく変わってきていると思っていて、それは阿部先生の取材を受けて僕も改めて考えて、ものすごく感じました。それは他に取材された方もそうでしたか。

阿部:そうですね。人材を生かすも殺すも組織次第というところはあります。組織がその人材を欲していなかったら、圧殺されるだけの話だと思います。

今はどの業界も、変わらなければという危機感を持っているので、“変人”を受け入れる土壌はできていると思います。

学問の世界でも、これまでの常識が通用しなくなると、年長の人が下の人間に知恵を授けることができなくなります。そうすると、従来の方法論が通用しなくなるので、新しい時代に精通している人が登用されやすくなる。こういうことは多分、いろいろな現場で起こっていることかなという感じはあります。

廣田:デジタル系の広告の話でいうと、上の世代の人たちが全く知らないソーシャルメディアもこの数年で急速に広まった。そういったことを広告のプランニングに使わないといけないときは、知識としてはみんなゼロなのでそこは若手にとってチャンスはいっぱいあると思います。

それでも、きれいに世代交代が進んでいるわけではありません。

阿部:わかります。インターネットが流行っているからといって、インターネットに詳しいそこら辺のお兄ちゃんを働かせるだけではうまくいかない。組織には連続性があるので、そこをある程度ふまえた上で新しい血を注入していくような仕事をする人じゃないと、結局よくわからないままに引っ掻き回して何が起こったのかわからないということが生じかねない。

そうするとやっぱり、組織の伝統みたいなものを理解しつつ、新しい血を入れることができる人が求められているのかなと思っています。これは『「破格」の人』で取材した人が共通して持っている部分でした。
(後編に続く)

※本対談記事のダイジェスト版を「ウェブ電通報」でも掲載。


prifiles

阿部真大 氏
1976年岐阜県岐阜市生まれ。東京大学卒。社会学者。甲南大学准教授。専門は労働社会学、家族社会学、社会調査論。ポスト日本型福祉社会におけるセーフ ティネットのあり方について社会学的な見地から考えている。主な著書に『搾取される若者たち ―バイク便ライダーは見た!』(集英社)、『居場所の社会学 ―生きづらさを超えて』(日本経済新聞出版社)、『地方にこもる若者たち―都会と田舎の間に出現した新しい社会』、(朝日新聞出版)など。近著に『「破格」の人―半歩出る働き方』 (KADOKAWA)。


【「電通 廣田さんの対談」連載バックナンバー】
■takram design engineeringの田川欣哉さんに聞きに行く
「自分で全部やってみたい人の仕事術」(前編)
「自分で全部やってみたい人の仕事術」(後編)
■Sumallyの山本憲資さんに聞きに行く
「リスクテイクする覚悟がある人の仕事術(前編)
「リスクテイクする覚悟がある人の仕事術(後編)
■内沼晋太郎さんに聞きに行く
「マージナルな場に飛び出す人の仕事術」(前編)
「マージナルな場に飛び出す人の仕事術」(後編)
■安藤美冬さんに聞きに行く
「展開型のキャリアで道を切り拓く人の仕事術」(前編)
「展開型のキャリアで道を切り拓く人の仕事術」(後編)

「SHARED VISION [シェアードヴィジョン]」
この1册で、ソーシャルの悩みを根本から解決!
kindle版 900円

ご購入はこちら 印刷版はこちら

1 2 3
この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ