【前回の記事「エージェンシーは中抜き? 米国で増えるインハウスマーケティングラボ」はこちら】
広告主企業と広告代理店の取引きのスタイルでも、ブランドAE代理店(ブランド担当代理店)という制度は最も洗練されたもののひとつである。何年かに一度コンペをして担当代理店を決めるが、ブランド担当代理店は責任代理店として普段から常にブランドに関わるコミュニケーション活動をフォローする。
ひとつのブランドをキャンペーン単位で毎回コンペにするとなると、よほど広告主側にブランドのコミュニケーション活動をマネージメントする機能が高くないといけない。
一方で、ブランドごとに担当代理店に広告メディアバイイングを発注すると、入札運用型広告の場合は、同じ会社内で競争入札をするということになりかねない。顧客または将来の顧客となるオーディエンスデータは、ユーザー単位でマネージメントすべきで、ブランドごと(商品単位)で扱うのは適切とはいえない。
つまりブランド横断でのデータ管理や広告バイイングが必須になるので、企業内で事業部横断、ブランド横断の組織がプログラマチックバイイングやデータマネージメントプラットフォームを駆使できる知見を持つべき状況になりつつある。
知見とデータは社内に蓄積する
そもそも、DMP(データ・マネージメント・プラットフォーム)は、企業にとって顧客である消費者をユーザーデータ、オーディエンスデータとして管理しようというものだ。これを外部に発注するということは、マーケティングの根幹を外部任せにするということになってしまう。
「知見とデータは社内に蓄積する。」このことが、今後の企業マーケティング活動において最も重要なテーマのひとつである。
広告代理店を競わせると同時にブランド担当としての担当責任をもってもらい、Always Onの状態でサポートしてもらう。一方で広告主企業内でやらなければいけないことは何としても自社管理すべきである。
そのためには、宣伝部やマーケティング部門は、自社内で行うことと、広告代理店に外注することをしっかり整理しておかなければならない。
その整理においては、広告コミュニケーション活動の評価、検証は、自社ないし第三者によってなされるべきである。
近年、広告活動のマーケティングROIを重回帰分析やシングルソースパネルによる分析で評価したり、最適なアロケーションを模索する動きが顕著になってきた。こういう活動は欧米では当たり前だが、第三者によって検証される。
そもそも「広告を売りに来る」広告代理店に、その評価や最適配分を求めること自体が、「サッカーのプレイヤーにレフリーの笛を持たせる」ようなものであって、健全ではない。
必要なマーケティングの遂行スキル
デジタル広告の配信で言えば、第三者配信サーバーは、企業が自社で直接ベンダーと契約すべきで、入稿作業は代理店にさせても、レポート画面は自社だけで管理すべきである。
複数の代理店を競争させて枠をバイイングしているのだから、特定の代理店に他代理店の評価をさせるのもおかしいし、データを見せるのはルール違反だ。正当な競争関係と言えない。
いずれにしても、データマネージメントやバイサイドの論理で行う入札運用、また広告活動の評価、マーケティングROI分析と最適なアロケーションまでは広告代理店を競わせて、いいアイデア、いい広告枠を買うこととは別の論理で運営する必要があり、こうしたことを自社で出来るかどうかがその企業のマーケティング力の試金石になろう。
その意味で、宣伝部やマーケティング部は、マーケティングのスぺシャリスト人材がどうしても必要になる。つまり従来の「発注の管理」という仕事とは違う自社マーケティングの遂行スキルである。
そのためにも、前回米国事例を紹介した「インハウスマーケティングラボ」という発想になる。日本における「インハウスラボ」によるスペシャリスト育成及び獲得について次回触れてみたい。