阿部真大さんに聞きに行く 「組織に属しながら自由に働く人の仕事術」(後編)

近未来の予測もできないほど、変化の激しい今の時代。前例、慣習に倣うのではなく、自ら社会の中に新しい役割、働き方を見つけていく必要があります。
工学部機械工学科卒業という経歴を持ち、現在は電通で「コミュニケーション・プランナー」として、これまでにない新しい企業コミュニケーションの形を模索する廣田周作さんもその一人。2013年7月には著書『SHARED VISION―相手を大切にすることからはじめるコミュニケーション』を刊行するなど、企業と消費者がフラットにつながる今の時代のコミュニケーションのあり方を自身の実践をもとに発信しています。
この連載では毎回、廣田さんが広告業界に限らず、そんな新しい働き方を見つけ、実践する方に話を聞きに行きます。

「SHARED VISION」関連記事はこちら

対談企画「仕事の作り方を変えよう!」

社会学者
阿部真大氏
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電通 プラットフォーム・ビジネス局 開発部 コミュニケーション・プランナー
廣田周作氏(『SHARED VISION―相手を大切にすることからはじめるコミュニケーション』著者)

【前回記事】 「組織に属しながら自由に働く人の仕事術」(前編)はこちら

良き伝統を身につけるための「抑圧」

廣田:伝統にも良い伝統と悪い伝統があると思っていて、闇雲に従うのも難しいですし、伝統をいかにハックするかというのも大事だと思います。電通には伝統というか、カルチャーとか電通っぽさというのはあると思っていて、それは暗黙知です。会社によってはクレドや、明文化されていて、毎日唱和して身につけることもありますが、電通の場合はOJTや研修でというのがひとつの特徴です。元々ちょっと変わった人が多い会社なので、逆にそういう研修を通して文化を身につけているということがあるかもしれないですね。

阿部:個の尊重と、組織や伝統の維持の両方必要だということが明らかになったんです。企業がダメだといったところで、企業から離れて働くことは難しい。もっと大きい話でいうと、国がダメだといってアナーキズムになるのも難しいし、家族がダメだから家族という形態を壊しましょうといっても多くの人は納得しません。ダメだと感じる部分をどのように変化させていくのかということだと思います。
それで、組織の中をどうやってハックしていくかという話になるんですけど、学問の世界で例えると、やっぱり基礎がなっていない学者はバカにされるわけです、「わかってろよ」みたいな感じで。

廣田:そういうことを抑圧と感じる人もいるわけですよね。

阿部:ものすごい抑圧です。修士課程の2年間は、ひたすら先生と先輩に「何の意味があるんだ」とか「何が新しいんだ」とやられるわけです。そんなときに、自由に学問がやりたいなんて言っても自由なんてないんだっていうことを言われる。

廣田:それは電通の研修に似ているかもしれません(笑)

阿部:それが正しい学問のあり方で、まずは自由なんてないと叩き込まれる。そうして叩き込まれた上で次の一手を打てるかどうか。その一手を打てれば、面白いものになるだろうし、叩き込まれたものをふまえているので、その後もそう変な手は打たないでしょう。結局、本人のことを考えても、学者人生を長く続かせていくためには基礎づくりの時間は必要だと思います。

阿部真大(社会学者)

阿部真大(社会学者)

それに近いものを電通の研修のお話を伺って感じました。君は自由ではない、電通の文化の上で生かされているということを身にしみて理解することが第一にあって、そこから自分らしさみたいなものをどうやって出すか。社会人の最初の数年は下積みです。高校時代、大学時代は変わり者で、ものすごく面白いことをやっていた人でも、社会人になるとすごい勢いで組織の抑圧を受ける。一旦、組織人としてたたかれて、10年くらいたって、やっと出てきたときに、変人であった学生時代の経験が生きてくるという感じです。だから今、僕と同世代の団塊ジュニアの人たちが面白いのは、その基礎づくりの時代を経た人たちが、ようやく表舞台に出てきているからだと思います。また、そういった意味では、基礎のできていない若い頃に注目されてしまった人と、基礎ができた上で花開いた人の間では、大きな違いがあるのかなという気もしています。

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