本欄では、広告主、広告業、メディア、クリエイターなどの垣根を超えて広告界の未来を本音で語りつくした2日間のセミナーの一部を紹介します。
【C3】4月15日(火) 12:50 ~ 13:50
『マーケティングデータ×アイデア発想=クリエイティブジャンプ』を実現するには?
<登壇者>
- グレイワールドワイド クリエイティブディレクター/コピーライター/CMプランナー 多賀谷 昌徳 氏
- 電通 クリエーティブディレクター/CMプランナー 東畑 幸多 氏
- AKQA Head of Planning 福田 憲一 氏
データによってクリエイティブの領域が広がる
——普段の仕事の中でマーケティングデータとどのように関わっていますか。
多賀谷:実は、僕はあまり消費者テストのデータを信用していません。データというのは過去のもので、いわば「掘り終った場所」と捉えています。つまり、そのデータを反映してもあまり意味がない。僕がやらなくてはいけないのは、今までにないものを提案することです。だから、データは参考に見る程度で、そこから仮説をたてて、もう一度消費者テストをする。検証という意味で、データに向き合うようにしています。
東畑:普段 CMの企画をする際にはそこまで意識しているわけではないんです。ヒットさせたい商品について絶対に勝ちに行くという戦略を練る際は、勝つために徹底的に調査データを使うというのが、これまでのデータとの付き合い方でした。
——データからクリエイティブジャンプは生まれるでしょうか。
東畑:ホンダさんの試みで、アイルトン・セナが、24年前に鈴鹿サーキットで残した走行データを解析し、エンジン音や3D技術を使って走行軌跡を再現した「Sound of Honda – Ayrton Senna 1989」があります。これを見た時に、データ活用は、未来を予測するだけでなく、役に立つ道具やサービスをつくる方向にも発展していくのではないかと興味を持ちました。ビッグデータによって、クリエイティブのほか、商品やサービス開発、ビジネスを創造していく上でも面白い土壌ができたと感じています。
走行データをセナの足跡と捉えていて、彼がここに存在していたことを正確に再現していることが、エモーショナルになり、ストーリーテリングになっているのが面白いんです。
多賀谷:走行データがセナを復活させ、意味のあるクリエイティブになっている。データが人の感情を動かしているのがすごいですね。
僕が担当しているファブリーズの案件では、消臭剤カテゴリーのデータだけを見ているうちは、やり尽くされたことばかりでしたが、洗剤カテゴリーのデータの中に「洗いたい」というインサイトを見つけたことがヒットにつながりました。データを眺める際に、ちょっと視点をずらすと鉱脈が見つかることがあり、そこから新しい価値が生まれたりするのだと思います。
福田:当社のサンフランシスコのオフィスでは、アウディのサイトを再構築するプロジェクトを進めています。Webサイトでは、ユーザーがどのブラウザでアクセスしたか、どこから来たか、どのくらいサイトに来ているか、どのようなワードを検索したか、何をクリックしたか、見積もりを請求したかなどのデータに応じて、ページの表現が変わる仕組みとなっています。
目指しているのは、顧客ごとに見えているサイトが異なり、リアル店舗であるディーラーへ行った際の店員の対応も変わる、というようなサービスです。その結果として、見積もり依頼する人は27倍に増え、ビジネス面でも非常に大きな成果を上げました。実現したいのは、顧客一人ひとりの体験をいかに良くしていくかということ。クリエイティブを生かす領域というのが、素材をつくるということから、どのような体験をつくるのか、というところへと変わってきているように思います。
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