ここでは、『販促会議』2014年6月号に掲載された連載「販促NOW-ツール」の全文を転載します。
通勤時間の楽しみと言えば、雑誌の中吊り広告を眺めることだったりする。ニュースで話題の人が、週刊誌によって異なる視点、見出しで語られているのを見ると、気になって仕方がない。「電車を降りたら、キヨスクで買おうかな」と迷うのもまた一興だ。しかし最近は、電車に乗ればスマホを片手にツイッターやフェイスブック、さらにゲームを楽しむようになってきた。中吊り広告に目をやっても、見出しは読むが、雑誌まで買わないこともしばしば。周りを見渡せば、スマホの画面に注目する人ばかり。一昔前であれば、雑誌や新聞を読んでいたはずの人もスマホに夢中になっている。
そんな中、スマホの中に雑誌の中吊り広告を入れてしまったのが「中吊りアプリ」というサービスだ。アプリを起動すると、電車の中のイラストがあり、雑誌の中吊り広告がぶら下がってる状態になっている。めくると、さまざまな雑誌の中吊り広告を見られる仕組みだ。気になるものがあれば、それを選択。拡大表示されるので、後は読みたい見出しをタッチするだけだ。記事単位で購入でき、スマホ上で誌面を読める。
これまでは、中吊り広告に書かれた見出しが気になったとしても、雑誌一冊まるごと購入する必要があった。このサービスであれば、欲しいページだけ買える。1日1回、無料で読めるクーポンがあるので、その記事だけ読むことも可能だし、ほかの記事も読みたいなら、キヨスクや近所の書店、電子書店で雑誌を買えば良い。気軽に立ち読みできるアプリという面でも重宝する。
実際に使って感じたのが、やはり雑誌コンテンツの数が少なくて物足りないという点だ。3月現在で12社14誌しかないので、ここはもうちょっと強化してほしいと思った。また、電車内で実際に掲出されている中吊り広告が見られる雑誌もあれば、表紙と目次のみしか見られない雑誌もあった。やはり中吊り広告は、見出しの大きさとデザインが肝であり、表紙とはまた違った味わいがあるだけに、できれば全誌、中吊り広告風のデザインを出してほしい。
出版社からすれば、今回のような記事単位での販売は「諸刃の剣」なのかも知れない。読者から必要最小限の記事しか買ってもらえないとなると、雑誌における収益構造が崩れ、1冊を作るだけのコストを確保できない可能性もある。一方で、記事単位で売り、それだけ読者層が広がるとすれば、新たな収益源の確保にもつながる可能性もある。まさに雑誌の記事単位での販売は、出版社にとっては相当、英断が求められたはずだ。いずれにしろ「巻頭から最後まですべて面白い」のであれば、読者は喜んで1冊丸ごと購入してくれ、出版社も読者もハッピーだ。雑誌の復権を果たす意味でも、出版社からの期待が大きそうなアプリだ。
石川 温氏(いしかわ・つつむ)
ケータイ・スマートフォンジャーナリスト。1999年に日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社。『日経トレンディ』編集記者を経て03年に独立後、ケータイ・スマホ業界を中心に執筆活動を行う。メルマガ『スマホ業界新聞』(ニコニコ動画)を配信中。
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