良い意味での“欲”を持つことが仕事のモチベーションに
——「ファイブレベル」では「情熱」が一番上に来ているのが面白いですね。
「情熱」の下の工程が素晴らしければ、世間と同程度のプロダクトは作り上げられます。
しかし、そこに情熱がなければそれ以上の付加価値は付けられません。最後の最後で競争に負けてしまうんですよ。
例えば温泉街のことを考えてみます。ある意味、温泉は日本のどこででも出るようなものなので、それ自体はコモディティ化している。
しかし、成功している温泉街とそうでない温泉街があります。その差は何かというと、いろいろ要素はあると思いますが、一部の人の情熱的なクリエイティブによるものが非常に大きいと思うんですよね。
弊社で言えば、現在東南アジアの急成長している新興国市場に注力しているので、市場がものすごい勢いで拡大している熱気に対して情熱を持てるかどうか。「自分がゼロから作っていくんだ!」とアドレナリンを出して取り組めることが重要なのです。
——会社から社員への成長の道筋として「ファイブレベル」があるわけですが、一方で社員に対して「自主的に取り組んでほしい」と思うことはありますか?
背伸びをしてほしいですね。先ほど言ったように高級なレストランに行ってみたり、良いホテルに泊まってみたり、文学作品や古典芸能に幅広く触れてほしいです。
できるだけ若いうちに「恥をかきつつも上の世界を見る」経験を積んでほしいです。こういった良い意味での「欲」社内では「デザイア」と呼んでいます。
ただ、こうしたデザイアは学ぶというよりも、個人それぞれが小さい頃からの経験でストックしてきたことによる面が大きい気がします。
もちろん社会人になってからも欲を大きくしていけるとは思いますが、それまで蓄積されてきたものの見方・価値観が大きく左右するのでどうしてもハンデはあります。
だから、そもそも採用段階でそうした欲を持っている人を採りたいし、入社した人に対しても、デザイアを刺激するような機会を提供していきたいと考えています。
——確かに、良い意味での欲はよりよい生活への憧れとなって仕事のモチベーションにもつながる面もありますよね。人材育成のことから話が変わりますが、最近の社会動向・消費者動向で気になることを教えてもらえますか。
世の中が本当に「モザイク化」していると思います。例えば、最近話題になってきた「サードウエーブ・コーヒー」の流れ※1。
長時間かけてローストしたコーヒーをゆっくり楽しむ、という価値観が部分的に広まってきている。
一方で、「マイルドヤンキー」※2が地方に多いといった話を聞いたりすると、この両者には激しい断絶があって、お互いが交じり合うことはないだろうなと思ったりします。
つまり、価値観が一律ではなく「モザイク化」している傾向が強まっているように感じます。
※1:アメリカのコーヒー文化「第3次」ムーブメントのこと。第2の波として、スターバックスに代表される「シアトル系カフェ」のように、様々なアレンジが楽しめ、紙コップで簡単にテイクアウトできるような文化。この「第3の波」は、ハンドドリップで一杯ずつ丁寧に淹れていくようなスタイル。
※2:博報堂の原田曜平氏の著書『ヤンキー経済』が火付けとなって広まる。自身の地元を生活基盤にして、そこでの人間関係を大切にしている人。上京志向がないとされる。