「私の広告観」
ヒット作品や話題の商品の作り手など、社会に大きな影響を与える有識者の方々に、ご自身のこれまでのキャリアや現在の仕事・取り組み、また大切にしている姿勢や考え方について伺います。
人の心をつかみ、共感を得るためのカギとなることとは? 広告やメディア、コミュニケーションが持つ可能性や、現在抱えている課題とは?
各界を代表する"オピニオンリーダー"へのインタビューを通して、読者にアイデア・仕事のヒントを提供することをめざす、『宣伝会議』の連載企画です。
中村義洋さん/映画監督
Twitterが全面協力したという映画『白ゆき姫殺人事件』。SNSやテレビ番組で切り取られた情報の“浅はかさ”を、中村義洋監督がユーモアたっぷりに描き出している。
(「宣伝会議」2014年5月号誌面より抜粋)
なかむら・よしひろ/茨城県出身。
大学在学中にぴあフィルムフェスティバル準グランプリを受賞。崔洋一監督、伊丹十三監督らの助監督を経て、『ローカルニュース』(99)で劇場映画デビュー。『仄暗い水の底から』(01)、『刑務所の中』(02)、『クイール』(03)で脚本参加する一方、『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)のヒットで注目を浴びる。その後も『チーム・バチスタの栄光』『ジャージの二人』(08)、『フィッシュストーリー』『ジェネラル・ルージュの凱旋』(09)、『ゴールデンスランバー』『ちょんまげぷりん』(10)、『映画 怪物くん』(11)、『ポテチ』(12)、『みなさん、さようなら』『奇跡のリンゴ』(13)など発表。その力強い演出と人間を見据える眼差しは高く評価されている。
ツイッターの炎上の裏にあるもの
『アヒルと鴨のコインロッカー』『ゴールデンスランバー』といった伊坂幸太郎作品のほか、『チーム・バチスタの栄光』『奇跡のリンゴ』などの映画化を手掛けてきた映画監督の中村義洋さん。3月29日公開の『白ゆき姫殺人事件』は、『告白』などで知られる湊かなえ原作の映画化である。
タイトルからはおどろおどろしいサスペンスという印象を受けるが、宣材物には「女同士の『噂』が暴走する─ゴシップ・エンターテインメント」とうたわれている。ある殺人事件を通して、ワイドショー番組やSNSの噂が暴走する怖さ、ツイッターの「炎上」の裏にある人間の欲望や自己愛、嫉妬といった感情を重層的に描いている。
注目すべきは、Twitter社が本作の制作に全面協力しているという点である。綾野剛が演じる情報番組のディレクター、赤星雄治はいわば「ツイッター中毒」の若者。取材で知りえた情報を自身の匿名アカウントのツイッターに垂れ流し、ある殺人事件にまつわる噂を増幅させていく。映画の全編にわたり、匿名アカウントによる多数のツイートが画面に現れては消えていく演出は見どころのひとつとなっている。
「ここ何年か、アルバイト先で目撃したタレントのこととか、職務上バラしちゃいけない機密事項をツイートして炎上している人が何人もいますよね。匿名であってもすぐに実名を突き止められて、社会的に抹殺されてしまうかもしれないというリスクがあるのに。結局、リスクよりも自己顕示欲が勝ってしまうんですよ。人間の“自分大好き”という感情が暴走すると何が起きるか、綾野さんが演じる赤星を通じて体感してもらえれば」。
物語は、地方の化粧品メーカーで働く美人OL・三木典子(菜々緒)が何者かに殺され、会社の同期で地味な存在の城野美姫(井上真央)が行方をくらませるエピソードから始まる。赤星は美姫に関する同僚の証言、美姫の学生時代の友人や近所の住民の声を集めながら、自身のツイッターでその断片を発信。「今、この事件の核心に近づいているのは、世界中で、俺、一人!」とつぶやき、タイムライン上で注目を集める快感におぼれる。
中村監督自身はツイッターのアカウントは持っていないという。「ただ一度だけ、数年前に期間限定でブログを書く機会があって。そのときにすごく頑張っちゃった自分がいたんですよ(笑)。ある映画の撮影期間中で、疲れて帰ってきても毎日2時間くらいかけて書いてた。そうすると、ブログの中で自分の仕事が完結しちゃうんですね。さも素晴らしい仕事をやりきったように、自分で自分を称えて満足してしまうというか。それって映画をつくる立場の人間として、怖いことだなと。大体、そういう“自分大好き”な文章って何も伝わらないし、第三者から見て全然面白くないですからね。ツイッターも同じだと思いますよ」