前回の記事「スダラボ視点のカンヌ観察日記(2)ーー博報堂セミナーに見る2024年の広告の仕事。または、我々は明後日どこに住むか?」はこちら
最古×最新=新しい、普遍。または、なぜ「ライスコード」は世界から高く評価されるのか?
博報堂 i-ディレクション局シニアクリエイティブディレクター
須田和博
カンヌ時間の月曜日、「ダイレクト部門」と「プロモ部門」の最終選考リストが発表になった時、スダラボの先着組の面々は打ちひしがれた。先に発表になった「ダイレクト部門」と「プロモ部門」の受賞を逃し、全滅していたのである。我々は思った。「アドフェストでは高い評価を得たが、やはり世界は厳しい。北米・南米・ヨーロッパが加わると、こんなにも入賞の壁は厚く高いのか・・・」と。
ところが、あくる火曜日、予想外の吉報が舞い込む。なんと「PR部門・ゴールド」の受賞のしらせである。正直、まったく予想していなかった。自分たちがアドフェストでの結果を受けて「脈あり」と予想していたのは、「アウトドア」「メディア」「ダイレクト」そして、夢のまた夢としての「チタニウム」だった。
「勝つは偶然、負けるは必然」とは、よく言ったものだが、本当に自分たちの予想を超えたところで状況は進展する。賞は水モノ、もらえたらラッキー、もらえなくても自分たちのやって来たことの価値は変わらない。そう自分たちに言い聞かせて、長く遠い道のりをコツコツ歩きつづけて来たワケだが、やはりスゴイ賞がもらえると、ヒト様に認めてもらえる。
賞は知ってもらえる「きっかけ」になり、賞はかけがえのない「資本」になる。そうして、そこから「新しい局面」が展開していく。何はともあれ、これでわざわざ、カンヌまで来た甲斐があったというものだ。
ここで、あらためて深く御礼を申し上げたい。
ご協力いただいているすべての関係スタッフ各位、青森県・田舎館村の皆さま、あらゆる形で応援してくださった皆さま、そして、いつも頑張ってくれているスダラボの面々、すべての方々に最大限の感謝を申し上げます。いつも本当に、ありがとうございます!ひきつづき、なにとぞ、よろしくお願いいたします!!
さて、振り返ると自分と「カンヌ・ライオン」とは、仕事人生の節目ごとに、ご縁があった。
最初のライオンとの出会いは、日清食品・カップヌードル「hungry?」である。入社して2年目の新人デザイナーとして、大貫さんチームで参加した競合プレゼンが、後に「フィルム・ライオン」のグランプリを得る。博報堂の歴史のみならず、日本の広告の歴史に燦然と光り輝く、日本を代表する名作CMであろう。
2匹目のライオンは、メディア・ライオンを「ミクシィ年賀状」でいただいた時だ。この仕事がきっかけで初めての著書『使ってもらえる広告』を書いた。CM界からWEB界に移住して以後、WEBの現場のリアルにどっぷり浸かってやってきた。その自分の仕事への考え方を「総ざらい」したことで、その後の自分の「やるべき仕事」がハッキリした。
3匹目のライオンは、昨年のロッテ・カフカの「泣きやみ動画」でのサイバー・ライオン。「使ってもらえる広告」つまり、ユーザーの役に立つ「ユーティリティ」という価値を動画広告にまで拡張した異色作だったが、この「現業」がカンヌに認められたことで自分のハラもすわり、吹っ切れて「ラボ」に向かうことが出来たといえる。
そして、4匹目のライオンは今回の「自主開発」案件での黄金の捕獲である。会社が掲げるテーマ通りの「広告新時代」を、まず真っ先に実現したと言えよう。
では、ありがたいことに、なぜかくも「ライスコード」は世界で評価してもらえているのか?
それは、『使ってもらえる広告』を書き終えてから後、3年間ずーっと考えているテーマである、『新しい普遍』がそこにあるから、だと言える。
「新しい普遍」とは何か?それは、人間が昔からもっている習性や、昔から大事にしている変わらることのない「普遍的な価値」を、今のメディアやテクノロジーによって「いかに新しくするか?」という考え方。
自分の講演ではこれを「最古×最新」という、これ以上シンプルにしようのない公式でメソッドを解説している。