講演者
平井 剛直(ビービット マネージャー)
ネットとリアルのあらゆる接点を統合する「オムニチャネル」時代となり、私たちを取り巻く環境が大きく変わってきている。
しかし、多くの人が変化を実感しているものの、実際に企業と消費者との間で何が変わっているのかを説明することは難しい。
モバイル端末が人々の生活に浸透し、デジタルと生活の境界線がなくなりつつある現在を、「重視すべき顧客接点が変わった」、「インターネットの存在感が増してきた」という程度で理解するべきではない。
平井氏は「モバイルの普及は、環境変化のスピードアップを意味している。生活のデジタル化は更に進む可能性があり、デジタルを意識しない程に生活にとけ込んでしまう。これは『革命』と捉えた方が良い」と強調した。
しかし、「オムニチャネル」という言葉を使いながら、実態はチャネルごとにマーケティング施策の個別最適化が進められ、変化に合わせた対応がなされていないのが現状なのである。
ビービットの平井剛直氏は、この現状における課題を「考える枠組みが元々あったチャネル別の思考のままになっていること」と指摘した。
従来のような思考法で対応できなくなっている。こうした変化に対応するためには、デジタルが浸透した消費者の生活を理解する必要がある。消費者の生活に企業がいかに寄り添って考えるか、そのステップを踏むことなく最適解にたどり着くことはできない。
平井氏は、顧客分析を行うことで実績を挙げた例として、大手学習塾のモバイルを利用した生徒獲得施策と、宅配企業における退会防止施策を紹介した。
成果につなげるポイントは、デジタルの世界だけでなく、アナログとのつながりで行動が起こっているという前提で、消費者とのコミュニケーションのストーリーを作っていくことにあるという。
そして、実生活とデジタルが密接に関わる消費者の生活を知ると「ビジネスをさらに前進させるアイディアも浮かび上がってくる」(平井氏)。大手学習塾の事例では、顧客を深く理解することで、新規の生徒獲得だけではなく、継続率の向上や他教科の受講(クロスセル)につながる打ち手を発見できたという。
また、実際に消費者に寄り添えているかを正しく把握するにはKPIをどのように定めるのかが重要だ。KPIも消費者の行動を深く知った上で設定する必要がある。例えば、ブランド理解を目的としたウェブサイトでは、ページ内のコンテンツを最後まで読み切ったかどうかを指標とすることが考えられるという。
デジタルマーケティングに限らず、企業と消費者との間には意識のずれが生じる。消費者は、生活の中でさまざまな刺激を受け、その刺激が行動に変化を生む。
一方で、すばやく変化する消費者に比べて、企業は組織であるために同じ経験を繰り返すことが多く、変化に対して臨機応変に必ずしも対応しきれているとは限らない。
このずれを解消するためには、いきなりトレンドの施策に飛びつくのではなく、消費者を理解することが今まで以上に求められている。そのために、「消費者の生の声を10分聞くことは、オフィスでの10時間のディスカッションと同じ価値があります」と平井氏は訴え、セミナーを終えた。
デジタルが生活の一部となり、深く浸透している変化の時代には、消費者の理解・分析が非常に大事となる。しかし、実際に企業や担当者が消費者に寄り添えているかを正しく把握するにはKPIを定めて、数字を追っていく必要がある。