インバウンド業界の「貧乏神」と「福の神」とは?
ちなみに、貧乏神(びんぼうがみ)の定義をネットなどで調べてみると、
「取りついた人間やその家族を貧乏にする神」という意味が出ていました。
また、これを昔話風にいうと、
「むかしむかし、ある村に、とても貧乏な男が住んでおりました。人も良く、とっても働き者の男だったんだけれど、いくら働いても暮らしはちっとも楽になりません。それというのも、実は男の家には貧乏神が住み着いていたからなのでした・・・」という感じになるのでしょうか。
そうなのです。インバウンドは前半で長々と述べてきたように、いまやわが国の屋台骨を支えるくらいのポテンシャルを秘めており、その実力を年々めきめきとつけてきています。しかし、インバウンドの売上の伸びている企業、たとえば、ホテルや旅館や小売店でも、その割にはちっとも儲からないと嘆いている方がたもびっくりするほど多いのです。それは、なぜなのでしょうか。ずばり答えましょう!それは「インバウンドの貧乏神」がそこに住みついてしまっているからなのです。
ベストセラー『7つの習慣』の著者として有名なスティーブン・R・コヴィーが提唱した考え方に、
「欠乏マインド(すべてのモノは有限だ!自分のコップの水が足りないなら、ヨソから奪えばいいという考え方)」
と、
「豊かさマインド(足りないものは、みんなで知恵を出し合い、工夫すれば必ず解決策があり、無限の可能性があるという考え方)」
というのがあります。これは、そのまま、
「欠乏マインド」=貧乏神
「豊かさマインド」=福の神
と置き換えてもいいと思います。
少子高齢化で消費が伸び悩むわが国のインバウンド業界は、ともすれば前者の「欠乏マインド」に陥りがちです。そして、貧乏神が降臨してきて、その店そのホテルに住み着いてしまうのです。「国内客が減っているから、外国の人に来て下さい!」という発想は、随分身勝手な考え方です。例えていえば、予約していた宴席にキャンセルが出たので、招いていなかった人に、「代わりに来ないか?」と誘っているようなものです。これでは、うまくいきません。訪日外国人は、減った日本人の代わりではないからです。当然、そんな店や宿に訪日客はやってきません。かわりに、貧乏神がやってきます。日本人客が減って、その分を訪日客が穴埋めしたところで、そこには何の成長もありません。儲けの伸びもありません。ジリ貧は目に見えています。貧乏神の仕業です。
さて話は変わりますが、お陰様で、わがドン・キホーテのインバウンド年間売上は6年間で10億円から約300億円超へと成長を遂げ、年間5百万人超の訪日客が来店するようになりました。ただし、当期のグループ全体の年商が約6千億円ですので、インバウンドの寄与率は、いまだその5%程度に過ぎません。それでも、近年各種メディアから取材を受けることも増えています。もちろん、それ自体は光栄なことでもあり、有り難いことではあります。
しかし一方、実は困惑することも多いのです。それは、取材者から
「中村さん、御社がそんなにインバウンドに熱心なのは、やはり日本人客が減っているからですか、その穴埋めのためなのですか?」
などとぶしつけに尋ねられる時です。手前味噌ながら、当社は創業以来、24期連続増収増益の上場企業であり、国内客そのものも毎年増え続けているのです。インバウンドによる純増の客数と売上は、国内客とのトレードオフ(入れ替え)ではありません。全部、足し算になるのです。これは福の神の神徳(しんとく)のお陰です。まさに福の神さま、さまさまなのです。
ドン・キホーテでは、そもそも国内客と訪日客を区別しません。国籍は関係なく、お客様は全部お客様だからです。最初からすべてのお客様に来店してもらいたいのです。また、広大な世界から訪日客を自店に誘致するには、単独の力では限界があります。
「豊かさマインド」に立ち、地域全体で連携し、知恵を絞り、訪日客をみんなで街に呼び込む必要があるのです。日本の明るい未来は、縮む国内市場をインバウンドで補うという「欠乏マインド」ではなく、「豊かさマインド」に立って、最初から世界全体を相手に商売する気概によってこそ、切り開かれるのではないでしょうか。国内市場で負けた分を訪日客で補おうという発想は、必ず貧乏神を招き寄せます。一方、「豊かさマインド」を常に心がけていると、福の神が呼び寄せられます。福の神様のご加護があれば、私たちの商売も、わが日本全体も無限に成長可能になるのだと思っています。そして、国際収支はあっという間に間違いなく常に真っ黒けの黒字になるのではないでしょうか。「福の神様」は、まさに一人一人の考え方が呼び寄せるものなのです。
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