成熟市場でいかに戦うか?――森永乳業、草の根的に広げる組織横断のマーケティング活動

トップダウンのCFTは難しい

藤田:私は日本では中央集権的なCMOという機能はなじまない。すべてを統合する「人」を置くのではなく、統合的に機能する「仕組み」をつくるほうが合っているのではないかと思っています。

その中で、CFT(クロス・ファンクショナル・チーム)で組織横断的な活動をすればよいという意見もありますが、実際にはトップダウンでつくられたCFTはあまりうまくいかない気がします。

上迫:手段が目的化してしまいますよね。その意味で、草の根的に横のつながりをつくって、結果的に他部門を巻き込む寺田さんのアプローチは素晴らしいと思います。

寺田:トップダウンでつくられるCFTは通常、部門の代表者が集まるので、部門の代弁者として行動してしまいがちです。

でも、お客様から見れば「森永乳業は森永乳業」であり、中の部門なんて関係ない。私はお客様と「個と個のコミュニケーション」ができることが理想だと思っているので、森永乳業という一人の人格でコミュニケーションをするためには、お膳立てされたCFTは、あまり有効ではないと思っています。

シングルソースデータ活用に期待

藤田:最近、ビッグデータという言葉に注目が集まっていますが、私はビッグデータの分析からダイレクトに新需要は創造できないと考えています。
上迫:そもそも仮説ありきで接しないと、大量のデータの中から、新しい発見をすることは難しいですよね。

寺田:実際にイベントでお客様と直接触れ合い、五感を通じて体得する情報に勝るものはないと思っています。ただデータについては、シングルソースデータを活用してお客様の行動を知ることには注目しています。食品のような商材はブランドスイッチが激しく、一度買ってくださったお客様が当社の商品を買い続けてくださる可能性は薄い。しかも、これまではその購買行動まで追いかけて把握することは難しかった。広告部としては個と個のコミュニケーションを理想ともしていますので、一人の人に焦点を当て、メディア接触から購買に至るまでの過程を追っていくことができるシングルソースデータは活用していきたいですね。

インテグレート 藤田 氏

インテグレート 代表取締役 CEO 藤田康人氏

藤田:これまでメーカーは、実際に商品を買ってくださったお客様と直接の接点を持つことができませんでしたが、その状況をデジタルテクノロジーの浸透が大きく変えていますね。

寺田:当社では、ブランドのコミュニティを立ち上げており、そのお客様へのアンケートとアクセスログを照らし合わせて、サイト内の投稿や賛同など、どのような行動をされた方がその後商品を好きになって頂いたり、購入して頂いたりしたかを分析してみました。その結果、商品モニターに参加して頂くなど、実際の体験とサイト内の行動が多い方ほど、より強いファンになって頂いた、というこれまで肌で感じていただことを可視化することができました。こうした分析を通じて、我々が行うどのような施策が、お客様との関係をより良くできるものなのか、直接知ることができるようになると思います。

藤田:社内の各部門に散在するお客様のデータを統合することで、より寺田さんの目指す理想が実現できるように思いますが。

寺田:最初から、そうした理想を目指しても、一部門ではできず全社の調整が必要となってきます。また、インフラの整備が目的になってしまい、お客様により満足をしていただこうという、そもそもの思いから外れた活動になってしまう懸念もあるのではないかと思います。データを使う目的は、あくまで一人ひとりのお客様と感情が伝わるコミュニケーションをし、より当社のことを好きになっていただくことに役割があり、この目的をぶらさずにできることからやっていきたいと思っています。

藤田:広告部員が自ら、他部門に顔を出し、人と人との交流から、草の根的に統合型マーケティングを実現してきた寺田さんのお話には、日本企業の風土に合ったIMC(インテグレーテッド・マーケティング・コミュニケーション:統合型マーケティング)実現のヒントが多くあったと思います。最後に今後、目指していることをお聞かせいただけますか。

寺田:今日お話ししたような取組みを属人的なものにせず、会社の資産となる仕組みとして残していくことです。たとえ私が広告部を離れても、あるいはふらりと相談に来てくれた基礎研究所の所長のような人がいなくなっても、部門横断でお客様と向き合う姿勢や活動が継続していくための仕組みをつくっていければと思っています。

藤田:ありがとうございました。

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