STAP細胞論文問題のその後の進捗と課題
筆者が本コラムで4月17日に投稿・掲載された「STAP細胞論文問題のコンプライアンス視点からの分析」では、細胞生物学者である小保方晴子氏がSTAP細胞発見の記者会見を行った1月28日から、その後、論文の偽装に関する懸念(2月13日に最初の内部通報)がもたれ、内部調査委員会(2月17日設置:「研究論文の疑義に関する調査委員会」)による調査及びその報告書が発表(3月31日)された結果を分析して評価を行ったものである。
この内部調査委員会では、2つの論文のうち、第1論文について小保方晴子氏の2点の研究不正行為を認定し、その後の小保方晴子氏からの不服申立てに対し、 5月7日、再調査は不要と判断(不服申立てに関する審査の結果の報告)し、5月8日、理研は再調査を行わないことを決定した。
また、STAP細胞誘導実験の追試を試みた科学者からは再現実験の困難さが非公式に指摘され、その後、著者らによる追加の実験手技書が公開されたものの、現在に至るまで正式な追試の報告はなく、今に至るもSTAP現象及びSTAP幹細胞の存在は明らかにされていない。
筆者の4月17日のコラムでも記載したが、このように、一般の国民がわかりにくい疑義的事態が生じた場合、透明性を担保するためにも外部の専門家・学識経験者のみを委員とする第三者委員会が並行して設置されることが望ましい。
STAP細胞論文問題では、内部調査委員会の報告書で、小保方晴子氏の第1論文について研究不正行為を認定した結果を受け、理研は、研究不正の防止及び高い規範の再生への取り組みについて実施状況などの確認及び必要な指示を行うため、理事長を本部長とする「研究不正再発防止改革推進本部」を4月4日付けで設置すると共に、同日、改革推進本部の下に、外部有識者からなる「研究不正再発防止のための改革委員会」(第三者委員会)を設置することも合わせ決定した。
本来であれば、第三者委員会は、内部調査委員会が設置されてから1週間から遅くても1カ月以内には設置されることが一般的である。2月17日に内部調査委員会が正式に設置されてから第三者委員会が発足する4月4日までに約1カ月半を要した点にも、説明責任への希薄と危機管理能力の欠如が少なからず存在していたと言わざるを得ない。
しかし、幸いにも第三者委員会が設置されたことで、問題の焦点は組織的な指揮・監督の分野に広がることになった。内部調査委員会の報告書では一部の研究不正行為に限定されていたが、第三者委員会では、再発防止の観点から内部調査委員会で対象とされた研究不正行為にとどまらず、 多くの疑義や不適切な研究行為などを含めた全体像をとらえることが重要ととらえ、調査を進めた。
その結果、小保方晴子氏のみならず共著者や監督責任者、所属長、理事などの役割や責任についても検討すること、組織運営やガバナンスのあり方についても検証することが不可欠であり、「研究不正再発防止のための提言書」(6月12日発表)の内容は予想を超える厳しいものとなった。
発表当初は、その厳しい内容に提言をどう受け止めるかは理研側での判断と、逃げ道を用意していたが、6月22日、新たに国内トップの実験用マウスの提供機関である理化学研究所バイオリソースセンター(茨城県つくば市)で、マウスの提供ミスが繰り返されていたことが発覚し、事態はさらに悪化した。
注文と異なるマウスなどが41機関46研究室に提供されたことで、研究そのものへの影響も計り知れないとの声が広がり、理研ブランドの信用毀損も一気に拡散している。
今回のSTAP細胞論文問題では、最初に問題が発覚してから、経営側が一気に膿を出し切る覚悟がなく、プロセスの重要なステップは踏むものの、外部(ステークホルダー)の強い要請や後押しを受けて、「重い腰をやっと上げる」といった煮え切らない対応が見え隠れした。
そうした印象が結果的に事態を悪化させるということに、残念ながら経営側が気づいていないか、そのスピード感に慣れていないと思われる局面が多く見受けられた。
企業の経営の精鋭は、不本意にも発生したひとつの不祥事から再発防止のための水平展開で事業全般を俯瞰し、多くを学び・知る。発生事態の是正はもちろん、二度と同様の事態を起こさぬための水平展開こそが重要と認知しているからだ。当然、再発防止のスケジュール化やそのための監視態勢も視野に入れている。
今回のSTAP細胞論文問題では、残念ながらそれらを指摘したのは外部の有識者で構成された第三者委員会だった。彼らが指摘したのは、自浄能力がもはや理研にはないとの危機的判断に基づくものだったからだ。