「すべては“自分ごと化”から始まる。それができなければ、内発も気づきも行動も生まれない」――オールアバウト 江幡哲也社長に聞く

——こうした落とし込みを行っていくためにも、その前の「自分ごと化」が大切ということですね。

そうです。先ほど申し上げたようなことは、「自分ごと化」していない人に教えても意味がありません。

とはいえ、「自分はこうしたい!」という意欲は、自身でなかなか気づかなかったり、それを周囲に言っていいのかわからなかったりするもの。

それらを引き出して、コミットメントさせるというマネジメントも重要です。

また、新規事業・新サービス開発の領域でこうしたことを現場で実行するのは難しい。なので、事業の種は私が持っておいて、「リーダーにしたい」「これが事業になった時にはまかせてみたい」と思う人材に、先ほど話したような視点の当て方、考え方などを1回転だけ一緒に実施するようにしています。

——難しいというのはどのような面で?

事業開発の領域は、すでにある商品・サービスのマーケティングとは違って高度なことが求められます。そもそも新規事業というのは、実現させることを含め非常に難しいですからね。だから、ある程度の大きな方向性は私が示して、目途が付いてからそこに人を連れてきて、一緒にサイクルを1度回すわけです。

3月27日に発表した、カーコンビニ倶楽部との業務提携による、中古車の個人間売買支援サービス事業を例に話をしましょう。任せたい社員に対して、「世の中消費増税で節約意識が高まって、生活防衛意識も高まる。その場合、コスト構造の変化という視点で考えたら、一番理想的なのは、中間コストのないCtoC。例えばここを事業領域にしたら面白い」、というところまでは私が設定します。

そこから先、CtoCをやろうとしたときに心配なのは、「信頼性」「安全性」について。ユーザーからするとリスクがあるので二の足を踏むという課題がある。また、手続きも自分で行わなければいけないから手間がかかってしまう。ビジネスとして成立させるには高額商品の方が良いが、そうした面をどうしたらいいと思うか、と問いかけるわけです。

すると、「どういうことが考えられるか調べてきます」など自発的にかかわるようになり、「自社のアセットである専門家のネットワークを使って、専門家に手間と信頼感を担保してもらったいいのではないか?」という話になる。

こうして、相手の意見を引き出しながら伝え、とにかく「自分ごと化する」ことに対してものすごく時間をかけるようにします。

そうしたやり取りを続けていき、最終的に「これはいけそうだ」となる。すると今度は実現のフェーズに移ります。実現を考えた場合、今回だと「既存の中古車ビジネスを行っている企業ではなく、中古車の査定ができる会社はないかな?」と水を向けたりすると、「こんな会社があります」と返答がある。でも、実際はそうしたやり取りをしている裏側で、すでに先方の会社とは私が話を進めていたりするわけです。

——「自分ごと化」だけでなく、実現のサポートもしているのですね。

そうです。逆に言うと、実現させることが最も大きなハードルですから、そこをサポートせずに「すべて自分でやりなさい」というのは無理があります。もちろんケースバイケースですが、ある程度「これは実現の壁は越えられそうだな」という目途が見えている段階で、巻き込むようにしています。

そこまでいけば、あとは自分で回すことができるようになります。今度は解決しなければいけないのは「仮説」ではなく「現実」の問題になり、それはいつまでに解決しなければならないのかという締切も生じます。つまり、やるべきことと期日が明確になるので実施できるわけです。

社長だとかプロジェクトリーダーというのは、頭で考えるよりも実際にやってみないと分からないことが非常に多い。従って、社内でそういう経験をした人を増やしたいと思っています。そうするとその人が今度は自身が経験したことから学んだことを加えて、また周囲にメソッドを広げていく、そういう循環に入っていけばと考えています。

——とはいえ、そうしたプロジェクトを任される人というのは限られてくるのではないですか?

私から直接というのは人数が限られますが、先ほどのサイクルは何も新規事業に限ったことではありません。すべての仕事において生じるものなので、大小の差こそあれ、さまざまなシーンで体験できることだと考えています。

あと、これは社員全員に課していることなのですが「アウトプットの量を増やす」ことに取り組んでいます。私自身もそうですが、インプットしたことについて、強制的にアウトプットする機会がとても大切です。

社内研修や講演会など、実は一番伸びているのはアウトプットをした人だったりします。相手に分かりやすく伝えるにはどうすればいいのかを考えることは、自身が本当の意味で理解しているかが問われることでもあるので、ものすごく脳に汗をかくのです。

次ページ 「アウトプットを促すために行っていることは?」に続く

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[マーケティング研究室]
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時代の流れがますます速くなっている昨今、求められる人材においても、そうした流れに翻弄されることなく、しっかりと考えて行動できる「マーケティング思考」が、マーケティング部門のみならず、あらゆるビジネスパーソンに求められる時代なってきている。

このコラムでは、そうした「マーケティング思考&行動」ができる人材を育成するにはどうすればいいのか?企業のトップに、人材育成について考えていること、大切にしていること、実践していることなどを聞いていく。

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