——そうしたアウトプットを促すために行っていることは?
他部門を巻き込んだ発表会などはよく行っていますし、評価指標の一つとして「アウトプット」という項目を設けていて、重視しています。評価する点は非常にシンプルで、この半年間とその前の半年間を比べて、アウトプットの量が増えているか減っているか、ということです。
そうして、社員のアウトプットを促して、さまざまな情報が共有されていくと、組織としてもレバレッジが効いていくようになります。
そうしたことが積み重なっていくと、組織が強くなっていきます。私にとって理想の組織は、現場で何か質問・疑問が生じた時に、その仕事の背景や、会社のビジョンとの関係性、結び付きといったことがしっかりと説明できたうえで、さらに仕事の具体的な方法の話もできる状況になること。つまり、その場で問題・課題が解決される組織ということです。
そうなると、社長はまた別のこと、社長でなければできないことに時間を向けられます。
——今後、どのようなことに注力していきますか?
当社は、「All About」という媒体を軸にしながら、まさに次のステージに行こうとしているところです。
日本は少子高齢化などの課題があるので、最近の状況を鑑みると「不安なく」「賢く」「自分らしく」、というのがこれからの生活者のキーワードになると思っています。それはテクノロジーによるカスタマイゼーション機能だけでは難しい。やはり、人のおすすめ、われわれの場合だと専門家の存在価値というのがさらに高まっていくと考えています。
従って、生活者を対象としたビジネスを拡大したいと考えています。実際、当社の売上構造も最近大きく変化しており、サンプリング事業や生涯学習事業といった、法人だけでなく個人からの売上が増えています。
いまや、当社の事業もネットだけでなく「ウェブ&リアル」になっている。ネットだけでなく、既存の商流、製造工程のプロセスなど、業界そのものの仕組みを創造的破壊によって作り直し、新しい価値をこれからも生み出していきたいと考えています。
<取材を終えて>
自身が多数の事業を立ち上げてきただけに、新規事業、新サービス開発をステージにした人材育成については、江幡社長の経験を基にした確固たるメソッドがあった。中でも「実現のステージが一番難しいのだから、そこをサポートしないのは無責任」というところに、成功体験を何としても積ませたいという意思をが感じられた。
そのベースとなる「自分ごと化」についても、「どうすれば責任感をもって自主的に取り組みたくなるのか」、人の力を引き出すコミュニケーションの積み重ねがあってこそ。それが、次々と新事業を生み出す同社の強みにつながっていると感じた。
江幡 哲也
オールアバウト 代表取締役社長
1965年神奈川県生まれ。武蔵工業大学を卒業後、87年リクルート入社。「キーマンズネット」など多数の新規事業を立ち上げた。2000年6月にリクルート・アバウトドットコム・ジャパン(現オールアバウト)を設立し、総合情報サイト「All About」をスタート。2005年9月にJASDAQ上場。2006年「アスピレーション経営の時代」(講談社)を発刊。専門家ネットワークを基盤に世の中の「情報流・商流・製造流」の不条理・不合理に対してイノベーションを起こし、“個人を豊かに、社会を元気に”することを目指す。