「なぜ、我々は海賊の旗を掲げるのか」——TBWA\HAKUHODO 座間一郎社長に聞く

オリエンで始まらないビジネスを

一例として、2011年秋に「家」を開発しました。系統電源やガス・水道に頼らない「オフグリッドな暮らし」を実現するというコンセプトで企画したスマートハウスです。これは、さまざまな技術を持つ企業十数社のノウハウを活用したもので、我々は生活者発想によるコンセプト開発からプロデュースを担いました。いわゆる「オープンイノベーション」の考え方によるものです。

この住宅は、2011年のIT・家電見本市「シーテック」に出展しました。広告会社が出展すること自体珍しいことですが、そこでさまざまなメーカーの開発担当者や研究者とつながり、新たな商品開発などの案件につながっています。

「コーポレートベンチャリング・アクセラレーター」を掲げるTBWA\HAKUHODO\QUANTUM

これらの取り組みは、オリエンで始まる従来型のビジネスではありません。我々が自らの発想で商品アイデアを企画し、特定分野の技術やノウハウを持つ会社の助けを借りながら商品のプロトタイプをつくります。そして用途開発までを行った上でメーカーに提案し、商品化はメーカーが行う。提案に対するフィーは頂きますが、さらに売れた分の何割かをレベニューシェアすることも考えられるでしょう。これは、我々が描く代理業からの脱却の一例です。オープンイノベーションの時代、メーカーの商品開発のあり方も変わっていかなければならないでしょうし、そこに私たちのクリエイティブ&プランニング能力を生かす勝機もあるはずです。

また今春から、TBWA\HAKUHODO\QUANTUM(クオンタム)という組織を立ち上げました。大企業とスタートアップベンチャーをマッチングして、新たな商品やサービスをプロデュースしていくものです。インターネット・オブ・シングズ(IoT)の分野で、新たなサービスを生み出すアクセラレーターに我々がなろうというビジネスモデルです。

——さまざまな革新的な取り組みを進めるにあたって、課題はありますか。

変化のスピードが早い世の中で、その流れに追い付き、さらに半歩先を行くことができるか、でしょうか。現在の新しい取り組みは、上手く行くとは限りません。これから5年後のことなどまったく予測できませんから。それでも、一番良くないのは「黙ってそのままでいることだ」ということは断言できます。

現在380人ほどの社員がいますが、徐々に大きな会社になりました。創業当初から見れば、人も入れ替わっています。もう一度自分たちの使命であるクライアントの成長に貢献すること、自分たちのカルチャーとは何か、何を目指して我々はここに集まっているのかを確認することが大切だと考えています。なぜ我々は海賊の旗を掲げているのか。常に言い続けることで、ぶれずに目標に向かっていきたいですね。


<取材を終えて>

クリエイティブよりイノベーティブ、広告会社ではなく「会社」を当初からビジョンに掲げたことが、ユニークな取り組みを続けるTBWA\HAKUHODOの出発点になったと言えそうだ。座間社長のリーダーシップのもと、同社の理念や目標を社内で十分に議論し、共有してきたことがうかがえる。広告会社の次なるビジネスモデルのあり方を冷静に分析した上での新たなチャレンジは、従来型の広告ビジネスの延長線上からは生まれにくいだろう。

社長就任後、数年間はロサンゼルスのTBWA\CHIAT\DAYをお手本としてきたというが、最近は新たなフェーズに入っていると座間社長は話す。広告の枠を越えた取り組みから新たな芽が出ていくことを期待したい。


座間 一郎
TBWA\HAKUHODO 代表取締役社長兼CEO

1958年東京都生まれ。立教大学卒。総合商社を経て84年博報堂入社。営業としてキャリアを歩む。TBWA\CHIAT\DAY(米国)グループアカウントディレクター、博報堂ジーワン副社長を経て、2006年8月のTBWA\HAKUHODO設立とともに副社長に就任。09年4月から現職。13年6月から、博報堂取締役常務執行役員を兼務している。「Campaign Asia Pacific」誌より11年、13年のエージェンシーヘッドオブザイヤーに選出される。米広告業界誌「インターナショナリスト」で13年秋、革新的な仕事を成し遂げた世界の31人のうちの1人に選ばれた。

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[マーケティング研究室]
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時代の流れがますます速くなっている昨今、求められる人材においても、そうした流れに翻弄されることなく、しっかりと考えて行動できる「マーケティング思考」が、マーケティング部門のみならず、あらゆるビジネスパーソンに求められる時代なってきている。

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