自らの「見えない足かせ」を外す—制約というハンデを利用する方法—Someone’s Shoes(後編)

「制約」を「触媒」にするには

つまりある制約を新たに設定することで、これまで所与の条件となっていた(意識できていなかった)別の制約を無効化することができる。右に足かせを着けるとそこに注意が行き、もとからあった左の足かせを暫し忘れてしまうのだ。このとき新たな制約は、「触媒」として機能している。

このような様式は「発想の有限設計」とも言えるだろう。

制約が触媒として機能する場面は世の中に偏在する。あらゆる物理的な道具や文化的な作法が、何かしらの型とルールを持つから、当然といえばその通りだ。例えば書き言葉の言語運用において筆記ツールがその構成を左右する。

思考のスピードと筆記のスピードの釣り合いを、どのレベルで合わせるか、という観点だ。流れるようにキーボードで言葉を紡ぐと、長文が生まれやすいかもしれない。ペンや携帯電話はスピードの他スクリーンや紙のサイズが作用して、例えば短文を刻むバイアスが掛かる。

それぞれのツールが持つ制約を特性として理解し有効活用できれば、その制約はむしろ触媒として機能する。逆に、理解なしにツールを用いてしまうと、あらゆる作法は足かせに終始する。

自らの発想は、すべて何らかの「足かせ」を纏った状態でか生まれている、と客観視できるか。その上で、足かせを脱ぎ捨てられるか。そして単発の発想に終わらず、それを育て続けられるか。これに意識的でありたい。


注釈:Someone’s Shoesという名前について

最後までお読みいただいてありがとうございます。少しだけ、語句についての解説を。

  • put oneself in “someone’s shoes”

英語で put oneself in someone’s shoes と言うと、誰かの身になって、立場になって考える、という意味になります(以前、『イン・ハー・シューズ』というタイトルの映画がありましたね)。

  • 思考の作法 “SS series”

前回のSpark Shadowingが「個人の思考をなぞる」作法であるならば、今回のSomeone’s Shoesは「集団の思考をなぞる」という作法になります。どちらも本質的には同じで、自らが無意識的に纏ってしまっている制約を客体化する、という目的意識のもと生まれています。そしてどちらも、頭文字が ”SS” となっています。

これは思考(S)の作法(S)シリーズであり、且つ「自己を補完する」ための(Self Supplementary)ツール群です。両方とも私の呼ぶ所の ”SS Series” のバリエーションです。

以上

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渡邉 康太郎(takram design engineering )
渡邉 康太郎(takram design engineering )

アテネ、香港、東京で育つ。大学在学中の起業、ブリュッセルへの国費留学等を経て、2007年よりtakram参加。最新デジタル機器のUI設計から、国内外の美術館でのインタラクティブ・インスタレーション展示、企業のブランディングやクリエイティブ・ディレクションまで幅広く手がける。代表作に、東芝・ミラノサローネ展示「OVERTURE」、NTTドコモ「iコンシェル」のUIデザイン、虎屋と製作した未来の和菓子「ひとひ」など。

多くのプロジェクトを元に体系化した「ものづくりとものがたりの両立」という独自の理論をテーマに、企業のデザイナー・エンジニア・プランナーらを対象とする人事研修、レクチャーシリーズやワークショップを多数実施。国内外の大学やビジネススクールでの講義・講演も。香港デザインセンターIDK客員講師。独red dot award 2009等受賞多数。趣味は茶道。

AXIS、IDEO Tokyoとともに、デザイン思考を広める一般向けの連続イベント「Collective Dialogue - 社会の課題にデザインの力を」を共同主宰。著書に「ストーリー・ウィーヴィング」(ダイヤモンド社)。その他「THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics – Tools – Cases 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計」(BNN新社)の監修・解説を担当。

渡邉 康太郎(takram design engineering )

アテネ、香港、東京で育つ。大学在学中の起業、ブリュッセルへの国費留学等を経て、2007年よりtakram参加。最新デジタル機器のUI設計から、国内外の美術館でのインタラクティブ・インスタレーション展示、企業のブランディングやクリエイティブ・ディレクションまで幅広く手がける。代表作に、東芝・ミラノサローネ展示「OVERTURE」、NTTドコモ「iコンシェル」のUIデザイン、虎屋と製作した未来の和菓子「ひとひ」など。

多くのプロジェクトを元に体系化した「ものづくりとものがたりの両立」という独自の理論をテーマに、企業のデザイナー・エンジニア・プランナーらを対象とする人事研修、レクチャーシリーズやワークショップを多数実施。国内外の大学やビジネススクールでの講義・講演も。香港デザインセンターIDK客員講師。独red dot award 2009等受賞多数。趣味は茶道。

AXIS、IDEO Tokyoとともに、デザイン思考を広める一般向けの連続イベント「Collective Dialogue - 社会の課題にデザインの力を」を共同主宰。著書に「ストーリー・ウィーヴィング」(ダイヤモンド社)。その他「THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics – Tools – Cases 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計」(BNN新社)の監修・解説を担当。

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