特別鼎談 いま実践すべき個客起点のマーケティングとは
セミナーの最後には、デジタル領域のマーケティングに精通する、スターバックス コーヒー ジャパンの長見明氏、タワーレコードの前田徹哉氏と、ハイブリスジャパンの堀裕氏によるパネルディスカッションを開催。ディスカッションでは最近、関心が高まる「オムニチャネル基盤構築」についても各社の取り組みが話された。
前田 タワーレコードは実店舗とECチャネルの2つの販路があり、私の仕事は一言で言えば「ECの店長」です。売上に対する責任まで含め、統括しています。
長見 私は企業サイト、EC、SNS、プリペイドカード「スターバックスカード」も担当していますが、当社の場合、ECチャネルの売上はさほど大きくないので、カフェの販促活動が主な仕事になります。
――CRM については、どのように取り組んでいますか。
前田 当社ではCRM の取り組みの一つとして、どの商品がいくらで何個売れたかの商品勘定に加え、「顧客勘定」という独自の考え方を取り入れています。商品が売れたというのは、所有権が企業から顧客に移ったということなので、顧客勘定を使いながら、お客様ごとに販売目標を決め、それに合わせたプロモーションを行っています。
長見 コーヒーのような単価の低い商品では、行き過ぎたシステム投資をするとROIが合わないと考えています。最近はシステム価格が下がってきているので、環境は整ってきました。「スターバックスカード」利用者のデータ分析はすでに行っていて、任意で属性登録もしていただけるようにしたところ、すでに約40万人の方に登録いただいています。
この会員データベースをO2O およびリサーチのプラットフォームとして活用を始めています。
――店舗を持つ企業のデジタルとの融合も今後のテーマ。グローバルでオムニチャネル基盤構築を支援する堀さんから、最近の動向を説明いただけますか。
堀 私たち、ハイブリスは1997年にドイツで設立され、日本に進出したのは2012年。オムニチャネル・コマースのためのソリューションを提供する会社なので、最近は基盤構築の相談を受ける機会が増えています。
お客様が様々なデバイスを自由に使い、能動的に行動する流れは、もはや誰にも止められないこと。だからこそ個客単位でシームレスな体験を実現するオムニ基盤が注目されていますが、フォレスター・リサーチ社の調査によると「オムニ基盤を構築できている」と回答した企業は全体の約5割という結果に。
オムニ基盤とは商品在庫、顧客データの統合というバックエンドの部分、さらに顧客接点におけるコンテンツ配信というフロントエンドの部分の統合だけでなく、その間をつなぐシステムが必要となるのですが、今その重要性に気づく企業が増えている状況と言えます。
前田 オムニチャネルの波からは逃げられないとは思っており、当社の場合も今後のために準備を進めています。
長見 飲食の場合は最終商品を店舗で調理するため、オムニチャネルに対する温度感は他の小売業とは違うように思います。ドリンクの引換券をプレゼントする「e- Gift」など、店舗の補完としてECチャネルを活用するほうが合っているかもしれません。
堀 確かに飲食・グローサリー系は、在庫管理も難しいので実現は容易でないところもあると思います。グローバルでは欧州ファストファッション大手が当社のソリューションを導入していますが、国によってはECは行わず、あくまで商品やキャンペーンなどの情報提供しかしていないケースもあります。
それでも個客別の適切なコンテンツ配信のために活用されていて、販売に関わらなくてもオムニ基盤は有効だと感じています。
前田 オムニチャネル化を進める上で、実店舗で体験できる「ハイタッチ」のコミュニケーションをいかにデジタルでも再現できるかは課題ですね。
長見 コンバージョンなどの可視化しやすいKPIを追いかけるだけではなく、体験を創る視点も重要ですよね。
――テクノロジーを導入する際にはデータとの向き合い方をはじめ、実店舗同様に生身のお客様と向き合っている心構えが必要ですね。
長見 ビジネス視点も重要だと思います。宣伝部のような組織だと、売上は見ていてもシステム投資効果については弱かったり、前田さんのように総合的に見る人がいないこともあります。
堀 売上へのコミットという点で言うと、システム導入に際し、情報システム部門とデジタルマーケティング部門の間で役割が明確になっておらず、導入の起案、そして導入後の投資効果、売上については誰が責任を取るのかという点が課題になりがちです。
オムニ基盤構築も、それ自体が目的ではなく、お客様の満足を高めることを考えた結果、実現しうるもの。長見さん、前田さんのように、顧客視点、さらに個客視点を持つことが今の時代のマーケティング戦略に大切だと感じました。
ハイブリスジャパン株式会社
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