講演者
- 松岡 洋平(ディッキーズ 日本法人副社長)
本講演では、「Webと店頭の両輪でブランド価値を最大化する」と題し、ディッキーズ 日本法人 副社長の松岡洋平が、同社の戦略を語った。
ソーシャル上の潜在需要をリアルでも確認
ディッキーズは、1922年、米国テキサス州で生まれたワークカジュアルブランドで、現在世界110ヶ国で展開。日本においては、2011年7月に 北アジア本部として日本法人を設立。 2012年には、オンリーショップ1号店である「ディッキーズ 吉祥寺」をオープンさせ、2014年は計6店の出店を計画している。
松岡氏はまず、日本のアパレルにおけるO2Oの取り組みを紹介したうえで、アパレル業界のO2Oに対する課題として、以下の3点を挙げた。
①ショップ店員がオンラインショッピングを殆どしない
②ショップ店員がネット事業に対し好印象を持っていない
③ツールを使うだけでは他社と差異化できず、売上が増えない
上記のことから、まだまだネットを活用し、それを店舗の活性化に生かしきれていない状況にあるという。
そうした中、ディッキーズとしての課題は「本格参入して日が浅く、実績データが揃っていないにも関わらず、投入商品の種類は劇的に増加したため、何をどれくらい仕入れるべきかの情報が不足している」ことにあったため、「ロックフェスやライブでの着用シーンとして、10代の消費者向けにディッキーズのショーツが流行する、という兆しをつかみ、キーアイテムを爆発的に流行させ、ブランド全体の認知と店頭・WEBの売上を増大させるという戦略をとることにした」と松岡氏。
具体的には、事前の施策として、ツイッターなどソーシャルメディアを活用して 需要の“芽”がどこにあるかを捉え、それが一部の傾向だけでなく、普遍的な現象かどうかを確認したうえで施策を行った。
2013年前半から、『ディッキ族』という言葉がウェブに目立つようになったという。これは、ディッキーズの特定のハーフパンツがフェスやライブファンの間で 通称『ディッキ』と呼ばれており、それらを着用した人たちのことを指した言葉。
松岡氏は「ソーシャルメディアでの動きを把握したうえで、実際にライブ会場にも観客として幾度も足を運び、行動観察を行うとともにどのような人がどのカラーを穿いているか、何時間もかけて1000人以上の着用データを目視で整理した。それにより、ロック好きのハイティーンや20代前半にとって、ディッキーズはライブ/フェスにおける“制服”となっており、潜在需要が大きいことを数字とその背景も含めて自身の目と耳で確認した」と話す。
さらに、観察した内容をまとめ、個人アカウントを有していた「HUFFINGTON POST」にて2年連続で投稿。「ディッキ族」という言葉が独り歩きしネガティブな文脈で語られることも多い中、実態を伴う中立的な情報として評価を集め、「ディッキ族」という検索結果のトップに上がることで、“炎上”対策にもなった。
消費者の商品探索コストを下げることで集客・売上アップにつなげる
そうした観察結果を、需要予測と商品生産にも活用。さらにフェスの会場で販売することで、カラー、サイズなどの詳細な売れ行きを把握したうえで、春夏の需要期に合わせた店頭への商品投入も行った。特に、メンズ商品でありながら着用者の半数以上を女性が占めることから通常とは異なるサイズの在庫に余裕を持たせるなどの生産計画を立てた。
さらに、そもそもメンズアイテムを買ったことがなく、さらに直営店が少ないがゆえに試着する機会もなく通販で買うしかない女性が「どのサイズがいいのか」ということをソーシャルメディア上でフォロワーに尋ねていることが多いことに着目。身長と体重を目安に適したサイズがわかる女性用の目安表を作成し、ツイッターで拡散させるとともに、店頭にも設置し、接客にも活用した。
「さらに、サイズが分からず買えていない人がツイッター上でつぶやいていたら、公式アカウントからサイズ表を提供するとともに、近場で買える店舗の情報も提供するというアクティブサポートを行った。これにより商品を卸している店舗の集客にも役立った」と松岡氏は話す。
こうした情報提供による店頭への誘導施策などを行ったことで、ネット上で「今すぐ目当ての商品が手に入る」ことへの理解が高まり、既存店舗でも新規顧客が増加し、売上アップにつながった。ネット通販においても、需要予測などによる適切なアイテムの投入によって、キーアイテム売上が増加。当該アイテムの通販売上は前年比10倍以上となっているという。
さらに、こうした施策の影響は14年2月にオープンした「ディッキーズ ルミネエスト新宿」にも好影響を与え、投入後すぐに売上トップアイテムになり、さらにはブランド全体で見てもターゲットである10代後半のブランド認知が大きく向上することにもつながった。
最後に松岡氏は「一般的なアパレルのO2O施策ももちろんこれから整備するが、まず我々固有の課題にフォーカスし、それに適した戦略に基づいて各種施策を行ったことで、オンライン、オフラインの集客増加、売上増加につながった」としたうえで、「消費者が必要とする情報が何か、どのように誘導すればよいのかを特定し、購買プロセスにおいて“商品の探索コスト”を下げるような施策が重要」として講演を結んだ。
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