【前回のコラム】「目の前にある仕事を「いまやるべきこと」としてやり遂げる」はこちら
本コラムでは講師陣や実績を上げた修了生が登場し、アートディレクターとしてブレイクスルーを感じた瞬間や仕事上のターニングポイント、部下・後輩の指導法について語っていただきます。第3回は博報堂 アートディレクター/クリエイティブディレクターの鈴木克彦氏です。
Q:デザイナーとアートディレクターの違いはどこにあると思いますか?
回答者:鈴木 克彦(博報堂 アートディレクター/クリエイティブディレクター)
アートディレクターってホント、とても奥の深い仕事です。何年やっていても飽きません。ぼやっと生まれたアイデアの塊に見栄えのいい姿形を与えたり、明快に現れるビジョンに必死で近づけたり。正解が1個じゃないから、いまだに試行錯誤の連続です。
デザイナーからアートディレクターにステージアップすると、やらなければいけないことと、責任を追わなくてはいけないことが一気に増えて大変になります。
僕も若い頃そうでした。次から次へと決定を下しながら、みんなを正しいゴールへの道に導かなければならない暗黙のプレッシャーとの戦い。これは場数で消すことができます。
僕の場合はあらゆる可能性を検証することで潰してきました。レイアウトのパターンとか、撮影時の人物へのポージングとか、毎回の仕事の中で最低1個は自分への新しいチャレンジを決めて徹底的にやりきるというルールを作りました。自信にもつながるし、次からムダな作業を省くことができるようになりました。
ひとえにアートディレクションといってもその方法は様々で、グラフィックデザイン、タイポグラフィー、世界観デザイン、フォトディレクション、イラストレーション、レイアウトデザイン、プリンティングディレクション、情報整理デザイン、ムービーディレクションなどいろんなアプローチや場面があります。
はじめから全部のプロになる必要はありません。むしろ自分の得意分野をみつけて、伸ばして、誰にも負けない道を極めることで自分のカラーを作ることもできますから。
思いついたアイデアをアウトプットにつなげるためにどの方法をメインにするか、どの方法を掛け合わせるかで、全然違った作品に仕上がったりします。
表現方法の選択と仕上げの見せ場作りのテクニック、まさにココがアートディレクターの腕の見せ所です。
アートディレクションは料理に似ているとよく思います。
お客さんに感動してもらうために、いかにいい素材(アイデアや写真やイラストや紙のチョイスなど)を用意して、いかにいい調理(レイアウトやタイポグラフィーや印刷技術など)をするか。素材の鮮度や熟し方とか、素材の良さをどれだけ知っていて活かせるか。高級な寿司や懐石だけでなく人気のB級グルメも同じですよね。
お腹を満たす「たべもの」に対して、心まで満たすのが「ごちそう」。
だから、脳を満たす「情報」でなく、心まで満たす「アートディレクション」でありたい、いつもそう自問自答しています。
アートディレクターとデザイナーの違いは、料理長と料理人の違いに似ていると思います。
腕がいいというだけでなく、どうプレゼンテーションするかという総合的な演出力があるか。教える側か、学ぶ側か。見渡わたしている風景が変わり、アウトプットの最後の砦になって作品のクオリティに責任をとる立場にいるかどうか。
いろんなタイプのADの考え方と体験談が聞けるアートディレクター養成講座、
僕の若かった時代にはなかったのでうらやましい限りです。
いいなぁ〜。
プロフィール
鈴木克彦(すずきかつひこ)
博報堂 アートディレクター/クリエイティブディレクター
主な仕事に、東ハト「暴君ハバネロ」、「THE SUIT COMPANY」、ミスタードーナツ「夏のミスドに雪が降る」、「Disney mobile on SoftBank」、SoftBank「iPhone」、「サッポロ一番・頂」、サンシャイン水族館「ペンギンナビ」、アメリカンホーム保険「希望の広告」、金沢市「ちょっと、金沢まで。」など。
カンヌ、D&AD、One Show、AdFest、NY Fes、Spikes、APA、日経広告賞、朝日広告賞、JRポスターグランプリなど受賞多数。