商品は米・サンビーム社製の「トースター」です。2枚の厚切りパンが焼ける昔ながらの飛び出し式。鏡面仕上げのデザインがとても美しいトースターでした。ただ、価格はちょい高め。「デザインがいいだけじゃ売れない!」という声が多い中、トースターの販売担当者はコピーライターと組んで、ある作戦に出ました。
カタログの誌面に、トースターの写真とともに、そのトースターを主人公にした小説の表紙を掲載したのです。『いさましいちびのトースター』(早川書房刊/トーマス・M・ディッシュ著/浅倉久志訳)というその物語は、別荘に取り残された掃除機や卓上スタンドなどの5つの家電たちが、しばらく帰ってこない主人を探しに旅に出る…という心温まるSFメルヘンです。本の表紙にはかわいらしく擬人化されたトースターのイラストも載っています。コピーの本文では、涙と笑いを誘う家電たちの奮闘ぶりも紹介しています。すると、主人公のお茶目な性格が重なって、トースターがとても愛らしいキャラクターのように思えてくるのです。誌面は読むだけでも楽しげな雑誌記事さながら。周りの予想に反して大ヒット商品になりました。
このケースでは、トースター&小説という組み合わせや、擬人化されたイラストも、読み手の感情を大きく動かす要素になったと思います。誌面を見ながら、我が家にペットを迎えるような気持ちでそのトースターの購入を決めた母子もいたのではないでしょうか。カタログを読んだ翌日から毎朝、食卓のトースターを見るたび「サンビーム君」のイラストが頭をよぎった人も多かったのではないでしょうか。
価格が高いせいもあると思いますが、掲載後しばらくたってから購入する顧客も多く、それだけ読み手の記憶に残る広告だったと言えます。担当者がどのように小説を探したのか定かでありませんが、意外なところから見つけてきた「一手」が大きな効果をもたらしました。
さて、あなたのコピーにも「最後のもう一手」、加えてみませんか?
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