問われる航空会社の危機管理能力
マレーシア航空機はウクライナ東部の高度3万3千フィート(約1万メートル)の上空を飛行中に撃墜された。欧州の航空管制調整機関「ユーロコントロール」(本部=ブリュッセル)は、ウクライナ東部上空では、平均約400の民間航空機が飛行していたが、ウクライナと分離派との紛争が本格化すると一部の航空会社はルートを迂回していた、としている。
ウクライナ政府は、紛争が激化した7月1日以降、東部空域に対して民間機は2万6千フィートまでは飛ばないよう制限、さらに7月14日以降は3万2千フィートまでの飛行禁止を指示していた。
そのときまでの軍用機及び軍事輸送機を撃墜したのが高度射程6500メートル~8000メートルの携行型地対空ミサイルと想定されており、SA11が射程2万メートルであることを前提としていなかった危機管理情報の収集不足による。
このような紛争地域では、より性能の高い兵器が使用される可能性を検討した上で、航空会社は人命を損なうリスクは限りなくゼロにしておかなければならない。ましてやロシアが分離派に対する軍事支援を本格化した時点で、より高度な近代兵器が投入される危機的事態は「想定範囲内」と考えるべきだった。
今回のウクライナ東部における航路は、欧州とアジアを結ぶ最短航路であり、アジア太平洋地域の多くの航空会社が使用していたが、オーストラリアのカンタス航空、香港のキャセイ航空、英国のブリティッシュ・エアウェイズなどはこの航路を避けて飛行していた。
一方で、マレーシア航空のみならず、エアーインディア、シンガポール航空、英国のヴァージン・アトランティック航空などは同空域がICAO(国際民間航空機関)(本部=カナダ・モントリオール)が飛行制限を出していないという背景から同一の危険ルートを使用し飛行していた事実が判明している。
航空会社は極めて稀であるが、上空での誤射や「領空侵犯」などによる撃墜の可能性を模索する必要性がある。このリスクはハイジャックやテロによるリスクと比べて可能性は低いかもしれないが、発生すれば「生存者ゼロ」となる危機となるため、航空会社のリスク管理体制や危機管理能力に懸念が生じ、事業存続にも影響を及ぼす事態となりかねない。
過去において主な民間機の撃墜事故は5例ある。
いずれも演習によるミサイル誤射や「領空侵犯」を理由とする撃墜の事例であり、予め報道されている紛争地域の上空でのミサイル誤射事例はない。その意味で、これまでの撃墜事故は不幸にも避けられない突発的な事例であったと言える。
しかし、今回のマレーシア航空機撃墜事故については、ある程度、現場空域での危険性が報道を通じて想定されており、航路の選択が各航空会社の判断に委ねられていた点で、前述の撃墜事例とは異なる要素がある。
3月に発生したMH370便の事故に続き、今回のMH17便の事故は、マレーシア航空にとっては絶対あってはならないものだった。不運だったと言えばそれまでだが、2度目の事故は回避できる選択肢があった点を考慮した場合、航空会社の危機管理能力や経営者の資質に懸念が生じてもおかしくない。