いまの時代のコミュニケーションに必要なのは「複眼思考」。——原田朋さん

——今年のカンヌではみんながストーリーテリングという言葉を言っています。やはり作り手も、審査する側もそれを意識するようになってきているのでしょうか。

ストーリーテリングは、なかなか日本人には馴染みにくいことですが、例えば、ケースビデオもストーリーテリングだと思うんです。「こういう問題を、このブランドはこう考えているので、こうして解決しました」というストーリーテリングですよね。

日本人が苦手な理由は、CMの長さにもあると思います。海外のCMは1~2分ありますが、日本のCM文化は基本が15秒なのでストーリーを作りきれないんです。だから、イマイチ、僕らにはストーリーテリングがピンとこないのだと思います。

これは個人的な意見ですけれど、全ての仕事はストーリーテリングであるべきだということではなく、言うまでもなく、みんなが前提として組み込んでいますよね。例えるなら、アドバタイジングと言わずにクリエイティビティと言っているのと同じように、アドバタイジングと言わずにストーリーテリングと言っているように感じます。

アドと言ってしまうと、メディアがあって、それにコンテンツを載せて届けることになりますから。広告から出発したフェスティバルだけど、広告がもともと持っていた力を色んなところに使っていこうという時に、その力の1つがストーリーテリングだと思います。

——日本勢は、もうちょっと賞を取ってもいいんじゃないかとも思うのですが、そう思える要因の一つに、海外の審査員からは日本のケースビデオは内容がわかりにくいと聞くことがあります。

海外から見たら分からないことも多いのですが、日本には日本独特の、日本だけの文化やコンテクストがあります。日本独特のものがアイデアの中にたくさん入り込んでいるんです。それを1から説明するのはとても難しいことです。

その仕事が成し遂げたことを、日本人として、日本の人にこう響いたということを説明してもわからないことがたくさんある。だから、もし海外賞を狙うのであれば、海外の人にプレゼンテーションをする時に、どこをどう伝えればいいのかは、海外の人の視点で説明し直す必要があります。

そういう意味では、狙ってやっていかないといけないと思います。

審査をしていて思うのは、PRを含めいくつかの部門に同じケースビデオを出品しているものがありますが、それでは分かってもらえないと思います。PRの文脈・PRの仕事として出品しないと難しいと思います。「PRにも出しておこうか」だと、通用しないでしょう。

ちゃんとPRの専門家に話を聞くなりして、しっかりPRの仕事に見える状態にして出さないといけない。

特にPRに関して言うと、これだけパブが出ました、広がりました、バズが生れましたというのがPRだと思いがちです。けれど、PR会社の人からすると、それは前提です。なぜなら、PR会社はそれが仕事だから。

インプレッションやバズが生れた向こう側で、クリエイティブの力が加わって、何が変わったのか。意識がどう変わったのか、行動がどう変わったのか。「具体的にその仕事が何をどう変えたのか」という点が審査のポイントです。来年からPRに応募する人はそこに気を付けてケースビデオを作成するといいと思います。

——日本はヤングライオンでも活躍がありました。しかし、若手でカンヌに来られている人はまだ少ないように感じます。若い人たちはどういう所を見にくると、今後の日本のクリエイティブのためになるでしょうか。

僕は入社3年目の時に初めて来ました。その時の感想は、やはり英語を勉強してから来るべきということですね。

自分に英語受信機能がないと、たくさんいいものがあっても吸収しきれません。なんとなくはすごさを感じるし、いろんなセミナーに顔を出すだけでもいいとは思いますが、まずは「英語を学びましょう!」(笑)。

英語が話せると、こんなに世界が広がるんだなということは、カンヌに来れば実感できますから、まず来てみればよいと思います。しつこいですが、来れば、やっぱり英語をやらなきゃいけないなと思うでしょうしね(笑)。

あと、日本にいても会えない人と会えます。日本ではなかなか、違う会社の人と会って一緒にご飯を食べたりしませんが、カンヌだとそれができてしまいます。若い人だと入場パスも安いみたいですから、とりあえず1回来てみた方がいいと思います。

次ページ 「今年のカンヌが今までと違うことは?」に続く

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