ブランディング&コミュニケーションズ・ラボ
差別性よりも独自性に着目せよ
「差別化を図るということは、他社のモノサシで自社を見るということ。その結果、小さな差異にこだわって独自性がますますなくなったり、社員が疲弊してモチベーションが下がってしまう。大事なのは、その会社らしさや社会的使命といった“独自性”の発見に注力することです」とブランディングディレクターの井尻雄久氏は言う。
ブランディングディレクターとは「企業の主体性を活かしながら、企業や商品のブランディング課題を解決するためのプロセスを提案・実行する人」。
これまで電通でアカウントプランナーとして数々のブランディングや新商品開発に関わる中で、「本当にクライアントに貢献するには、短期的な売上向上のための施策より、中長期的な会社の繁栄に貢献するブランディングを行うべき」と考えるようになり、「ブランディング&コミュニケーションズ・ラボ」の設立に至ったという。
同社の特徴は、ブランドが生み出す“関係性”を核に、ブランディングを考えていくことだ。「企業と社会、企業と従業員、企業と企業、地域と住民…ブランドとは、そこに関わるすべての人をつなぎ、関係性を作っていくもの。つまりブランディングとは、“幸せな関係づくり”だと考えているんです」。
その実現のために必要な条件は2つ。「ブランドビジョンを明確にすること」と「関わる人が幸せを実感していること」だ。まずは経営者や従業員とワークショップやディスカッションの機会を何度も設け、ブランディング課題を発見する。
「経営者の考える“課題”は、経営上の課題であって、実は本質的な課題ではないことも多い。ブランドビジョンの明確化は、建物の基礎工事と同様です」。
どんな会社でも、その会社ならではの社会的使命をもって創設され、社員も各自が夢を抱いて入社してきたはず。会社の中に本来ある「こんな風にお客さんに喜んでもらいたい」気持ちの掘り起こしに主眼を置き、ブランディングのプロセスの約8割はインナー施策だという。
こうした状況が実現でき、商品やサービスの提供を通じて従業員が活き活きと生活者との「幸せな関係づくり」に力を注げるようになれば、その意思と情熱はあらゆる接点を通じて生活者に伝わっていく。それが生活者のファン心理の形成につながり、ブランド力を高め、結果的に売上の向上につながる。
情報過多のいま、生活者は受け取るメッセージを敏感により分けている。売らんかなの情報は遮断され、自分を幸せにしてくれそうな情報は受け入れられる。だからこそ、ブランディングにおいても“幸せな関係づくり”を意識することの有効性が高まっている。
井尻雄久/ブランディング&コミュニケーションズ・ラボ 代表(ブランディングディレクター/コミュニケーションプランナー)
1968年横浜生まれ。ジェイアール東日本企画、電通を経て2013年独立。これまで大手コンビニのブランディングプロジェクトや菓子メーカーの新商品企画、地域活性化プロジェクトのプロデュースなどを手掛けるほか、ブランディングをテーマにした講座を主宰している。
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