BILCOM+1-10design
企業と生活者を つなぐ見えざる想い
いのちをテーマに共創の場をつくる
無数の白い球体が空中を浮遊し、空間に溶け込んでいる。これは何を表しているのだろうか?
企業ブランディングを目的としたWebコンテンツ「Invisible Things」は、協和発酵キリンが08年の発足以来掲げている志に込めた、「社員が共有する製薬会社としての価値観」を映像化したもの。病気と闘うすべての人に笑顔を届けるために真摯に向き合うという同社の覚悟を、1-10designのCD富永省吾さんら気鋭のクリエイターとコラボして制作した。
映像に加え、ユーザー参加型のインタラクティブコンテンツも公開し、世界が美しい思いや切なる願いで溢れていることをともに感じてもらえる構成になっている。
「『たった一度の、いのちと歩く。』クライアントの社員信条の結びの文章にはこう書かれています。それほどの覚悟を持ち365日、重篤患者のいのちを救うために抗体医薬の開発など日々活動されているのに、生活者と接する機会はほとんどありません。そこで、いのちをテーマに共創できる場をつくりたかった」とビルコムのECD小川丈人さんらクリエイティブチームは企画の骨子を固めた。
しかし、薬事法の制約もあり、いのちを広告で表現することは思いのほか難しく、何カ月も悩む日が続いた。光が射したのは、富永さんが“見えざる想い”というコンセプトを開発してからだ。
「クライアントと生活者との唯一ともいえる接点は薬です。見えるプロダクトの裏にある見えない想いを可視化することが自然な流れだと考えました。クライアントから生活者への想いだけではなく、誰かが誰かに抱くいのちへの想いは、目に見えないけれど実はそこら中に溢れています。その想いを個々に気づいてもらい、体験してもらいたかった」。
白い球体は薬の錠剤を想起させるのと同時に原子記号でもあり、見えざる想いのメタファーにもなっている。それを従来の広告手法とは異なるメディアアートで表現した。
「できるだけ映像の世界観に埋没してもらい、自身の内面に深く追体験してもらうことに重きを置きました。あえて違和感を生む表現など、ここまで振り切った表現ができたのは、懐の深いクライアントの理解があったからこそ」とプランナー綿野賢さんは語る。
映像は静かにはじまり、静かに終わる。ヘルスケア領域の広告として新しい可能性を示唆したこの広告は、普段接する機会の少ない企業と生活者の見えざる絆を結びつけることに大きく貢献した。