「『影』の部分に正面から向き合った」小出宣昭・中日新聞社社長
栄えある賞をいただくことができた理由について考えていたとき、トヨタ自動車の内山田(竹志)会長の話を思い出しました。私が「プリウス」の製造が始まった経緯について聞いたところ、20年ほど前に当時の社長の豊田英二さんから「20世紀は車がどうも悪者になっている。21世紀は、『車は善である』と言えるようなものはできないか」とのテーマをいただいたことが開発の発端と話していました。環境に対して「悪者」ではなく、「善」である車をつくろうとしたというのです。
文明には必ず新しい光が当たりますが、反対側には必ず影ができる。その影の部分をどう払しょくしていくかということが、プリウス開発の原点なのだと実感しました。
交通死亡事故もまた、車という文明によって得られた便利で楽しい生活の反対側にある、影の部分と言えるものです。しかも愛知はワースト1が10年も続きました。その愛知・名古屋にある新聞6社とラジオ4社が、ともに手を携えて立ち上がった。我々ジャーナリズムが、広告を使って文明をめぐる新しいテーマを提供した。ここにこそ、大賞をいただいた大きな意義があると考えています。
光の部分だけでなく、反対側の影の部分もしっかり捉えながら皆さんに提供していく。それがこれからの広告には求められるのではないでしょうか。交通事故の被害者も加害者も、新聞の読者であり、ラジオのリスナーです。そうした方々のためにも、影の部分をいかに小さくしていくか。我々の実績はまだ小さなものです。昨年は219人の方が亡くなられました。一昨年と比べ16人のマイナスと聞いています。若干の進歩でしょう。それでもまだ、ワースト1の記録は拭い去られていません。
日本一の工業県の影の部分にあるこうした側面に、真正面から向き合いました。その結果による今回の受賞には深く感激しています。これからも各社の枠を越えて、こうした影の部分も十分にくみ取りながら社会問題に取り組んでいきたいと思っています。
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