本レポートでは日々、最前線で多くのお客様と接するマーケターの意識が周囲を巻き込み、顧客中心のマーケティングを実現する土壌を作っている2企業を取材。お客様に対する深い理解をもとに、社内の理解を得て、お客様中心の企業風土を根付かせようと日々、真摯に仕事に取り組む2名のマーケターの取り組みを紹介します。キーワードは、脱「マス・マーケティング」。一人ひとりのお客様と真摯に向き合うことで広がる、マス広告ありきではないお客様との接点作りの可能性と、マーケティングが経営にどう貢献できるかを考えます。
お客様視点のバリューチェーンを構築する、トータルプロデューサーを目指したい。
森永乳業 広告部長 寺田文明さん
「個対個のコミュニケーション」、「メッセージwith エモーション」…。お客様とのコミュニケーションにおいて、“超・アナログ”とも言える理想を掲げる森永乳業の寺田文明広告部長。しかしながらデジタル・テクノロジーの進化は、コミュニケーションの原点回帰とも言える理想を実現できる環境を作り出そうとしています。
企業都合ではなく、真の顧客中心のマーケティングを実現しようと考える森永乳業の活動とは?
――寺田さんは2008年に広告部に異動になってから、広告部の果たすべき役割を再定義し、テレビをはじめとしたマス広告も、なぜ必要なのかを改めて問い直してみたと聞きました。
広告部長である私が1億2千万人のお客様一人ひとりにお会いし感情も交えながら直接話をして商品の良さを理解して商品を買っていただく「個対個のコミュニケーション」が究極の理想と言えます。
もちろん、そんな理想を実現するのは現実的に無理なので、方向性だけはぶらさずに、私自身を代理するもの、伝え方を代理するものは何かを考えることから広告の目的、広告部の役割を見直していくことにしました。
そして「個対個のコミュニケーション」という理想のもと、「①お客様から見た時に、企業が“一人の人”として見えるようにすること」、「②広告だけに頼るのではなく、お客様と直接触れ合える、リアルイベントを活用すること」、「③あらゆる場で、お客様に感情を伝えるコミュニケーションを重視すること」の3つの活動に注力することを決め、活動しています。
②のイベントは私自身が参加するものだけで平均月に2~3回。時に、私がイベント会場で着ぐるみの中に入っていることもあります(笑)。
ただ、こうしたイベントや③の感情を伝えるコミュニケーションは重要だと思いつつ、スケールアップする方法論を考えないと当然効率が悪いですので、広告部が実施したイベントを水平展開できるように体系化したり、お客様同士も体験などをコミュニケーションできるようなコミュニティを作るなどの仕組化を進めています。
――企業のマーケティング部門に対する投資効果の説明責任を求める声は、ますます強まっていると聞きます。特にお客様と接点を持てるメディア、手段が多様化する中で、限られた資源をどう配分するかは大きな課題。予算はもとより、「人的リソースの投資配分最適化」をいかに実現するかが、マーケティング責任者が頭を悩ませるテーマになっていると感じます。その点から考えても、寺田さんが指摘される「感情を伝えるコミュニケーション」をいかにスケールアップさせるかという課題は、とても重要な論点ですね。