——アジア・パシフィック地域の中でも、特に日本市場についてどう見ていますか。
まず、日本はアジア市場の中でも特に西洋化されている市場だと思います。東洋は、ビジネスにおいてパートナー企業との関係性や信頼感といったものを重視する傾向にあると思いますが、西洋の国々は、ROIをはじめ、成果をより重視します。日本はその両方が重視される、大変チャレンジングな市場だと感じています。当社が本拠地を置くインドは、人と人、会社と会社の関係性を重視する文化を持ちながら、パフォーマンスベースのビジネスを支えるテクノロジーも発達している。その点、日本市場のニーズにも応えられるのではと考えています。
また、マルチチャネル、マルチデバイスに対する取り組みは特筆すべきポイントだと思います。これまでにお会いした広告主企業は、かなり先の未来を見据えていると感じました。テレビ、PC、モバイル、デジタルサイネージ……広告主は様々な媒体に触れてユーザーの反応を見ており、複雑化するユーザーの行動を把握している。世界に通用する知見を蓄積していると言えると思います。
アジアの中でも最大級の規模を誇るモバイル市場の動向も、とてもユニークです。とあるクライアントは、広告費の40~50%をモバイルのパフォーマンスに充てている。他国では多くても20%ほどが主流ですので、これは注目に値すると思います。モバイルの中でもWebブラウザとアプリとを比較すると、日本では他国に比べ、Webブラウザへの投資がかなり多い。これは、特にEコマースについて言えることです。Eコマース利用者のチャネル別の内訳を見ると、Webブラウザとアプリの割合は、中国で1:9、韓国で6:4、日本で8:2。日本はインターネット環境が良く、ブラウザの閲覧がスムーズに行えるためだと考えられます。
日本の顧客行動を見ていてユニークだと感じるのは、40%ものユーザーが商品購入前にPCとモバイルの両方をチェックしていること。こうした行動をとるユーザーは、他国ではたったの10%程度です。日本の消費者が、情報収集・購買にあたって、いかに上手くデバイスを使い分けているかが分かります。
ユーザー行動のデジタルシフト、モバイルシフトと、それに対応する広告主企業……その動きが、アジア、そして世界の中でも先進的な日本において事業展開を強化することで、行動リターゲティングに留まらない、我々のビジネスの新しい可能性を見出すことができるのではないかと考えています。
——リターゲティング広告については、ネガティブな意見を持つユーザーも少なくないと思いますが、それについてはどう考えていますか?何か克服する策などありますか?
ユーザー(顧客)に対する教育・啓蒙が、もっと必要なのではないかと思います。広告主、ユーザー、そして我々のような第三者配信事業者。オンライン広告の世界には、こうした3つの立場のプレーヤーが存在しますが、テクノロジーに関するリテラシーが最も低いのはユーザーです。広告表示をはじめ、ネットの閲覧環境を自らコントロールできないことが、逆に「コントロールされている」と、ネガティブな感想を持ってしまう原因になっている気がします。
リターゲティング広告は、ユーザーからもっと受け入れられるようにならなければいけないと思っています。そのためには、企業とユーザーとの間で、オープンな関係性を築くことが不可欠です。Webサイトやオンラインサービスへのサインアップ、メールマガジンへの登録など、ネット上でユーザーが能動的に行動できるようになれば、画面には自分が興味関心のある情報・コンテンツだけが表示されるようになり、ネットでの体験はより豊かなものになると思うのです。
また、ブラウザサイドの、ユーザーのプライバシー管理もより重要になると思います。情報公開範囲の設定など、アプリではすでに当たり前の機能として使われていますが、PCではそうしたプライバシーコントロールをしないことがほとんどです。ユーザーが自分の意思でオンラインサービスに関われること、そして自分の意思でコントロールできること。この両方が実現できるように、ユーザーを教育していく必要があると思います。
ちなみに当社のソリューションでは、ユーザーがすでに購入した商品の広告を表示することはありません。我々のビジネスはCPAモデルを基本としており、ユーザーが広告を介して商品を購入した時点で、広告主との取引は完結するからです。それが我々のソリューションの特徴とも言えます。