【前回の記事「「惜しい!“べからず公園”——負荷は、なるべく分散させる表現に」はこちら】
このところ、気象災害が本当に多いですね。それに伴う交通機関のダイヤの乱れに関する掲示も、よく目にします。9月に入り台風シーズンも本番で、こうした掲示はますます増えるかも知れません。でも残念ながら、その運行情報の出し方が、惜しい!
例えば、ある日(これは気象関連ではありませんが)東京都内の某駅ホームに表示されていた、運休のお知らせ[写真左]。中段冒頭の「東急線情報」という5文字は動かず、その右のオレンジ色の本文の部分が、この後、電光掲示で右から左へと次のようにゆっくり流れました。
「17時08分頃、東横線は□□駅において人身事故があり、△△~〇〇駅間の運転を見合わせています。」
これから電車に乗る人たちにとって、どこの区間が止まっているのかは、最大関心事。ホームにいる人達は、その部分の情報が文末に出現するまで、じっと我慢して電光掲示を見詰め続けていました。電車到着直前にホームに来て、もう文末を待つ余裕が無い人は、気になりつつもそのまま乗車して、車内放送でやっと情報を得て「なんだ、そうと知ってたら乗らなかったのに!」と嘆いたりするでしょう。このロス、何とかならないでしょうか?
解決策は、あります。文字が流れるスピードを速くする? それでは、追いつけない人が出て来るし、誤読も増えます。《速く》するのではなく、《早く》すればよいのです。そう、要点から先に出す、語順の工夫です。
この工夫は、誰にでも出来る作業です。(このコーナーのコンセプトは、「プロのコピーライターやデザイナーに発注しなくても、まず自力で出来る事をしよう」ですから。)あなたが情報発信をする担当になったら、《一番大切な情報はどれか、一語ずつチェック》して語順を決めましょう。上記の文面を、順々に見て行くと——
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今、乗客に真っ先に伝えるべき情報は…「17時08分頃」が一番大事かな?
⇒違うな。運転再開時刻ならいいけど、事故発生時刻を知ったって、それで乗客の行動が変わるわけではないもんな。じゃ、これは先頭に置くべきじゃないな。
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「東横線」が一番大事かな?
⇒違うな。全線ストップならそれでいいけど、東横線の多くの部分は、動いてるんだもんな。現にホームにいる人達には、より具体的な区間の情報が必要だよな。
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「□□駅において」が一番大事かな?
⇒違うな。ホームの皆が知りたいのは、事故現場よりもまず、運休区間だよな。
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「人身事故」が一番大事かな?
⇒違うな。ニュース番組ならこれが重要だけど、ホームにいてまず知りたいのは、運休の原因よりも区間だよな。
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「△△~〇〇駅間の運転を見合わせ」かな?
⇒そうだ、これが一番肝心!この言葉を、先頭にしなきゃ!
同様にして、冒頭の不動の赤い5文字も、考えてみましょう。特に東急電鉄に問題が多いわけではありませんが、たまたまいつも見かける例として挙げさせて頂くなら、同社の場合、大抵ここにまず「東急線情報」か「他社線情報」という表示が出ます。企業としては、この分類は最大関心事でしょう。でも、乗客にとっては、止まってる路線の経営母体が東急か否か、なんて事はどうでもいいです。実際、同じ東急系でも遠くの別路線の話よりは、近所の他社線の運休の方が、気になります。(遠い親戚より、近くの他人!)
社名の分類を真っ先に赤文字で知らせてもらうより、端的に《何が起きているのか》を知らせてくれる企業の方が、ずっと“客思い”で好感が持てます。では、ここで最も重要な5文字は何か? 上記の地道なチェックで見つかるのは、「運転見合せ」の5文字ですよね。
というわけで、今回の事例の場合、原文の内容を全て尊重するとしても、文面はこうする方がいいでしょう。
「運転見合せ/△△~〇〇駅間(東横線)。17時08分頃、□□駅で人身事故発生のため。」
これを電光掲示で流すと、最初の場面は[写真右]のようになります。これなら、急ぎ足で電車に乗ろうとしているあなただって、チラッと目をやるだけで、情報が入りますよね。もう一度、[写真左]と見比べてみて下さい。どんな社内事情があろうと、結果が全てです。客思いなのは、どちらでしょうか?