もう一つ、お願いをするときに大切なのが「理由づけ」です。心理学の世界に、「理由をつけた場合と、つけない場合の承諾率のちがい」を調べたこんな実験結果があります(「カチッサー効果」心理学者 Ellen j.Langer)。
コピー機の順番を待っている先頭の人に、
1、先にコピーをとらせてくれませんか? (理由なし)
2、急いでいるので先にコピーをとらせてもらえませんか?(本当の理由)
3、コピーをとらなければいけないので先にコピーをとらせてもらえませんか?(適当な理由)
と、3通りの聞き方でお願いをした結果、1は60%、2は94%、3は93%の人が承諾したのです。この実験でよく語られるのは、3のような理不尽なお願いだとしても、何でもいいから「〜なので」と理由をつけたほうが承諾してもらいやすいよ、ということなのですが、実験には続きがあります。コピーをとらせてもらう枚数を、5枚(前述の数値)から20枚に増やした場合、1は24%、2は42%、そして3は24%に承諾率が落ちてしまったのです。つまり、コピー20枚程度のお願いになると、もっともらしい理由では通用しないということ。人に何かを依頼したり、商品を売るコピーライティングに応用するときには後者の結果をふまえて、相手が十分に納得できるような理由づけが必要です。
このように、心理学にはコピーワークの参考になるヒントがたくさんあります。本コラムでも書きましたが、商品を売りたいからとホメてばかりいるコピーよりも、「ちょっと値段が高いのがたまに傷」のように、ネガティブな要素もしっかりと書くことで全体の信用度が増す。このことは、米国の心理学者ホブラントが、「一面提示で自分に有利な結論だけ言うより、両面提示で不利な面も同時に言うと納得しやすくなる」と提唱しています。
また、心理学の説得の手法にはクライマックス法とアンチ・クライマックス法の2通りがあり、前者は、大切な部分=クライマックスを後半に持ってくる形。これに対してアンチ・クライマックスは重要なことを先に伝えてから補足をしていく形なのですが、どちらの形を選ぶかは、相手がじっくりと読む状況(小説など…)ではクライマックス法が適するが、相手が積極的に読もうとしない(広告コピーなど)場合は、伝えたいことを前に置くアンチ・クライマックスの形が有効…といった具合です。
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