小さなアイデアの芽を育てる体制をスタート
――コンテストでアイデアが上がってきにくいというのは、ほかの会社でもよく聞きますね。
当社に限らず、こういうコンテストでありがちなのが「出てきたアイデアを上の人がつぶしてしまう」こと。経験があるだけに、最後まで聞かずとも途中で先が見えてしまい、「それはこういうことじゃないかな?」と軌道修正してしまう。すると、せっかくアイデアを上げてきた社員のモチベーションがガクンと落ちてしまうのです。
だから、今年の新卒研修を行った際、「やはりアイデアは出し切らせることが重要だ」とあらためて感じました。アイデアをまだ出している最中にあれこれ言うのは、ナンセンスだと思いました。相手に伝えるなら出し切った後に「じゃあ、この考えをどうまとめていこうか?」と、これまた相手にボールを預ける形で考えさせていく。研修の半分くらいはアイデアを出し切ることに時間を使ったのですが、こうしたプロセスが大切だと実感しました。
――そういった試みは今までもやっていたのでしょうか?
そういう企業文化にしたいという考えは持っていました。アイデアをつぶさず、まずはやってみる。そのためには「小さく始める」ことが大切です。そこは社員にも話しています。小さく始めて、うまくいったなら大きくしていけば良いし、ダメだったら撤退すれば良い。企画書づくりもプレゼンをイメージすると分かりやすいですが、整理せずに「あれもこれも」となってしまうと、詰め込みすぎてうまくいきません。
ただ、誰でも実施までの要件定義ができるわけではないので、簡易的な起案書を基に、それをサポートしていく人をつけるようにしています。サポートしていく人が起案書をしっかりとした企画書にして、さらに要件定義書になっていくというプロセスを7月から始めています。
経験が浅い人にいきなり「完成度の高い企画書を出せ」というのはハードルが高い。でも「1枚でいいので、こういうことがやりたいという起案書をまず作って」ならば取り組みやすい。それが良いものであれば、起案書をブラッシュアップするサポーターやシステムは会社が用意する、という仕組みです。
今後はそういった「起案書から企画書へと変換させる能力」を持った人材の育成も必要と感じています。とにかく、今はビジネスの芽を育てて、今後に向けてのビジネスのタネを増やしていきたいと考えているところです。
<取材を終えて>
「チャレンジを促す社内の雰囲気づくり」の重要性については、多くの経営者が指摘することだが、その先「出したものがどう生かされるか」で社員のモチベーションは上がりも下がりもする。7月からスタートしたという「いいアイデアを実現にもっていくサポート体制」は、小さなアイデアの芽を見過ごさないというメッセージでもある。今後どのようなアイデアが実現していくのか、時間が経過したところで再度聞いてみたいと感じた。
香川 仁
バリューコマース 代表取締役社長 最高経営責任者
1991年4月アイダエンジニアリング、92年 日刊工業新聞社を経て、2003年 ヤフー入社。同社にて、メディア事業統括本部広告本部商品企画部長、メディア事業統括本部広告本部商品企画部長兼広告本部広告サポート部長、マーケティングソリューションカンパニー事業推進本部リサーチアナリシス部長、12年 クロコス非常勤取締役を経て、13年 3月にバリューコマース 取締役副社長執行役員兼営業・事業開発部門責任者就任。14年 1月 代表取締役社長 最高経営責任者(現任)。