ad:tech Tokyo/World Marketing Summitから見えてきたマーケティングの新潮流

一方、実践的なマーケティング手法は続々と

マーケティングに必要な戦略と組織が備わっていないとされる中、新規のマーケティング技術の普及は盛んである。アドテックでは過去最高のアドテクノロジーの会社が出展し、業界は大きく進展していることがわかる。

ご覧のように様々な広告テクノロジーの発展により、デジタル上での消費者への効率的な広告配信が可能になっている。それ自体は大変喜ばしいことではあるのだが、一方で多くのテクノロジーやステークホルダーを管理することに労力がかかっているのも現状。

まずは企業と消費者の距離を縮める方法を模索する必要があるのではないだろうか。

また、新しいメディアやそれに伴う広告手法も続々と登場している。多くの流通がビッグデータの活用、オムニチャネルの構築にしのぎを削っており、ITとマーケティングの境目がどんどん低くなってきている。

一方でニュースキュレーションアプリがメディアのカテゴリーとして確立しつつあり、スマートフォンでの展開を睨んだ「ネイティブアド」といった商品が続々と開発され、市場に広がっている。

また広告なのにコンテンツとして広がってゆく「コンテンツマーケティング」もスマートフォンや動画の普及に合わせて広がっている。

リアルタイムマーケティング

アドテックの基調講演でTwitterのMellissa Barnes氏とKIIPのBrian Wong氏は、図らずも「リアルタイムマーケティング」ということで内容が重なったのではないかと考えている。

Twitterはソーシャルメディアの中でも特に拡散性が特徴でリアルタイムメディアであるテレビとの相性が良いことで知られている。大型のスポーツや音楽イベント、ニュースなどの中継に合わせて消費者の心をとらえた企業Tweetは大きく波及していく。

またKIIPは消費者の心理状態が一番広告を良く受け入れる状態での露出をモデルにビジネスを展開している。

筆者も経験上そのような広告は効果があることを検証しており、特に代表チームや選手が活躍する場面での商品露出(ブランドとしての選手応援)は大きな効果をもたらすのである。

KIIPは主にゲームなどの完了画面を用いているのであるが「いつ広告を出すのか?」というところまで来ているのが現状である。

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マーケティング4.0を実現させるポイントはオウンドとリアルか?

この他にも、数多くの著名な登壇者やゲストの話聞いたのだが、筆者にとっては、マーケティング4.0を実現するには「オウンドメディア」と「リアルイベント(コミュニティ)」が必要ではないかと感じた。

これは逆説的ではあるが、デジタル、アドテクノロジーが発展し、デバイスの多様化とネット化が進み、コンテンツマーケティングが盛んになればなるほど重要ではないかと考えているからだ。

まずはリアルであるが、こちらはWMSJでネスレ・アンバサダープログラムを紹介したネスレ日本の高岡浩三社長とイタリアのメディアオルナム銀行のオスカー・ディ・モンティグニーCMOが具体的な実例を挙げていた。

基本的には両社ともにロイヤル顧客あるいは見込み顧客をリアルなイベントに招待し、そこでは売り込みをせず(教育やブランディングや体験は提供)に顧客の求めているものを与えて、コミュニティを醸成しているのである。筆者は1990年代のNifty Forumよりデジタルコミュニティに携わっているが、強いデジタルコミュニティには「オフ会」というものが存在しているのである。

まさに両社ともこれを体現してデジタルのみでは醸成できない強さを作りだしている。

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また、「オウンドメディア」に関しては前回のコラムで立てた仮説が今回の2つのイベントで検証されたと感じた。

Marketing 4.0ではユーザーを取り込み製品開発や改良に参加(ソーシャル・イベント)してもらい、アドテクノロジーを駆使して気持ちが高ぶった時を見つけてリアルタイムに広告を配信し、各所でコンテンツやネイティブアドを拡散させ、ビッグデータやオムニチャネルを駆使して優良顧客を見つけなければいけないのである。

しかも、顧客は一つのマーケティング施策だけでは商品・サービスを判断しないために商品・ブランド・カテゴリー・企業・ファンの世界観を総合的に見せていかなければならない。

これはメディア上でコンテンツを広げたうえで、それらを集約してリアルタイムにストーリーに仕立てることができるのはオウンドメディアではないだろうか。

土台を作ったうえで各種施策を展開するほうが効率もよく、効果も上がるのでは、と考えるようになったのである。

その時はトラフィックを集約するというよりもコンテンツを集約してつなげてゆくことが大事かもしれない。Marketing 4.0はロングテールでストック型のオウンドメディアを持った上で各種のデジタル施策を行い、リアルのイベントでロイヤルカスタマー(アンバサダー)コミュニティを強化してゆくマーケティングが効果的ではないか。

お知らせ

読者の皆さんの意見も是非聞きたいと思うので、コミュニティを立ち上げたいと思います。興味のある方は是非、Facebookグループ(次世代マーケティングプラットフォーム研究会)を作ったのでこちらへ参加ください。もちろん「オフ会」も実施する予定です。(笑)

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江端 浩人(事業構想大学院大学教授)
江端 浩人(事業構想大学院大学教授)

米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、2005年日本コカ・コーラ入社、iマーケティングバイスプレジデント。2012年9月から日本マイクロソフト業務執行役員セントラルマーケティング本部長。2014年11月よりアイ・エム・ジェイ執行役員CMO。2017年3月ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。現在、同社執行役員メディア統括部長兼株式会社MERY副社長。

日本コカ・コーラ在職中は、同社が運営する会員制サイト「コカ・コーラ パーク」を開発し会員数約1200万人、月間PV約10億を誇る巨大メディアに成長させた。

日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会が主催する「Webクリエーション・アウォード」で、2010年度の最高賞「Web人大賞」を受賞。2014年に日経BP広告大賞を受賞。2012年4月に開学した「事業構想大学院大学」の教授に就任。日本マーケティング学会会員。

江端 浩人(事業構想大学院大学教授)

米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、2005年日本コカ・コーラ入社、iマーケティングバイスプレジデント。2012年9月から日本マイクロソフト業務執行役員セントラルマーケティング本部長。2014年11月よりアイ・エム・ジェイ執行役員CMO。2017年3月ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。現在、同社執行役員メディア統括部長兼株式会社MERY副社長。

日本コカ・コーラ在職中は、同社が運営する会員制サイト「コカ・コーラ パーク」を開発し会員数約1200万人、月間PV約10億を誇る巨大メディアに成長させた。

日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会が主催する「Webクリエーション・アウォード」で、2010年度の最高賞「Web人大賞」を受賞。2014年に日経BP広告大賞を受賞。2012年4月に開学した「事業構想大学院大学」の教授に就任。日本マーケティング学会会員。

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