見えないことを想像する力
上田:葛西さんの展示に僕が書いたこともありましたね。
葛西:僕からお願いしたんです。そのとき上田さんは「葛西薫は原始人である」から始まり、「自分でいいと思ったことをわしづかみにする」というようなことを書いてくれたんです。そのワイルドな書き方が、自分が決してワイルドだと思っていなかったから嬉しくて。
上田:僕はずっとそう思ってましたけどね。葛西さんは、羊の皮をかぶった何とやらだと…(笑)。
葛西:何かアイデアの入り口が見えた瞬間ってありますよね。もがいて、やっと何やらしっぽのようなものを捕まえたとき。そうなると、ずるずるっと手元に引き寄せたくなっちゃうんですね。それで、言うことを聞かなくなる(笑)。
上田:続きが見たくなるんですよね。ウーロン茶の仕事も、その連続だったんじゃないですか。モデルを探したり、撮影場所を探したりする中で育てられた嗅覚や、見えないことを想像する力は、自分にとってすごく大きいです。常に想像しながらさまよっていたような覚えがあります。
葛西:モデルのオーディションをしていると、上田さんはすーっと、この子しかいないと断言する。それが不思議で。上田さんには確信があるんです。ちょっとの違いなのに、上田さんにとっては大きな違いがある。あれは何だろう。
上田:僕はそれを説明する言葉は持ってないけれど、ただ…その人を見ているとどんどん想像できる。尽きない、というんですかね。顔でも姿でもなくて、その人をずっと見続けることができる、いうような。
葛西:正対してくれる人というのか、斜めを向かずに正面から向き合ってくれる人はいいな、と僕も思います。
上田:皆若い人だから、経験もそんなにないはずなんだけど、それでもまっすぐ向き合ってくれる人を選んできたんじゃないのかな。男も女も。
葛西:よく今でもウーロン茶の「母と娘」篇を撮ったときのことを思い出します。あれは上田さんが初めて演出をしたCMで、撮影前に、ディレクターとして母親役のモデルに説明をしていたんです。「一生懸命洗濯してください。今日という日の洗濯と、昨日という日の洗濯は違いますから、今日は今日しかないという気持ちで」って。一見同じことを繰り返しているようでも、今日この日は2度とやってこないかけがえのない時間なんですよ、ということを説明していたんです。そうしたら、本番の洗濯が素晴らしくて。上田さんの言葉がそうさせたと思います。
上田:今どきの人が洗濯板でごしごしできるかな?と思ったけど、袖をまくり上げて、がっがっとやっているのを見て、本当に綺麗だなと思った。あのときは感動しました。
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