経営とは、マネジメントではない。マーケティングである。——ネスレ日本 代表取締役社長兼CEO 高岡 浩三氏

経営はマネジメントではなくマーケティングである

日本語の「経営」は、英語ではマネジメントと訳されます。しかし、僕はこの訳を「マーケティング」に変えるべきだと考えてきました。マネジメントという概念は、製造業の生産の現場の近代化が進む際に、より効率的に従業員を動かし、生産性を上げるために生まれてきたものです。しかし需要が伸びていく時代であれば、生産効率の向上が売上、利益の拡大につながったかもしれませんが、成熟した今の市場環境では真のマーケティング、お客様にとっての価値創造が何よりも必要です。管理するのではなく、どうしたら一人ひとりの社員がお客様にとっての価値創造を最優先で考えられるようになるか。私が実践してきた人事制度のイノベーションとは、マーケティングを中心に据えた経営の基本になるものです。

——ネスレ日本では近年、従来のマス販売モデルに加え、「ネスカフェアンバサダー」のようなダイレクト、ワン・トゥ・ワンのマーケティングの取り組みを強化しています。

 現在、当社の売上におけるダイレクト販売の割合は約10%。2020年には、この比率を20%にまで高めていこうと考えています。最近、コンビニ各社がプライベートブランド開発に力を入れていますが、お客様の選択肢が増えることなので、僕も大賛成です。この流れの先に予測するのは「コンビニ業界による食品業界の再編成」。一方で、当社は既存チャネルに加えて、ダイレクト販売を強化しています。こうした判断ができるのもお客様にとっての価値を優先するという、明確な判断基準があるからです。

5年、10年先を見据えて今、打つべき手を考える

——「ネスカフェ アンバサダー」、さらにスーパーマーケットなどに出店する「カフェ・イン・ショップ」など、これまでにないビジネスモデルを形にする時の判断はどのように下しているのですか。

 僕にも最初から正解が見えているわけではありません。それでも決断を下していくのが経営者の仕事だと思います。例えば「ネスカフェアンバサダー」のような企画の場合には、「一杯の美味しいコーヒーを売る」という概念ではなく、「職場でのコミュニケーション」が提供する価値。つまりは商品そのものではなく、その先にあるお客様にとっての真の価値を見つけていくことが求められています。

しかし、そうした価値に対するニーズはお客様も気づいていない顕在化していないもの。お客様を観察しているだけでは思いつくことができません。そこで、まずは経営者として5年、10年先に自分たちを取り巻く環境がどうなるか。さらに自分たちは、その中でどうあるべきかを考え、その実現のプロセスを作ります。その上で、最終的にそれをいかにお客様にとっての価値につなげていくかを考えています。これから来たるリスク、あるいはチャンスをどうお客様にとっての価値に転換できるかがを考え、実行するのがプロの経営者の仕事と言えます。

日本で名を残した経営者の多くが創業社長ですが、それは企業と自分が一体化しているので必然的にマーケティングのセンスを身に着けていくからではないでしょうか。僕のようなサラリーマン経営者は、マーケティングのセンスは自然には身に付かない。しかも、多くが自分の在任期間、大過なく過ごせればいいと保守的になってしまいがちです。サラリーマン経営者こそ、マーケティングを知り、プロの経営者になるべきではないでしょうか。

2014年9月24日、25日にはマーケティング界の世界的権威であるフィリップ・コトラー教授が2010年に設立したワールドマーケティングサミット(WMS)が初めて日本で開催された。コトラー教授の他、デービッド・アーカー氏、アル・ライズ氏、ドン・シュルツ氏などマーケティング研究の世界的権威が参加。さらに日本からも高岡浩三氏の他、新浪剛史氏、吉田忠裕氏、魚谷雅彦氏と錚々たる企業のトップが登壇し2日間で、のべ2500名が参加した。本サミットはWMSグループ、Kotler Impact Inc.、日本マーケティング協会とネスレ日本をはじめとする設立スポンサーを基軸に、ワールドマーケティングサミットジャパンカウンシルが立ち上げられ、企画・運営されたもの。2015年度も10月5日、6日の2日間に渡り、東京での開催が決定している。以前からコトラー教授と親交のあった高岡氏はWMSジャパンカウンシル代表も務め、日本でのWMS開催に尽力した。


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