またアディダスのFIFAワールドカップキャンペーンは、2010年の南アフリカ大会と今年のブラジル大会、2大会にわたって携わり、印象に残っています。南アフリカ大会では、世界最大のユニフォームを制作し、特注のトラックに乗せて南ア国内各地を行脚。大きな街だけでなく、国で一番小さな村まで行き、現地の人々にサインをしてもらいました。
W杯への関心を持ち、参加してもらおうとした施策です。ベーシックなアイデアながら、話題が国中に広がったのが印象的でした。
ブラジル大会では、6つのカメラを内蔵した特別なサッカーボールを制作して、世界各地に送りました。そうして各地で撮影された映像をまとめて、キャンペーンムービーとして展開したんです。手法は異なっても、目指すゴールはどちらの施策も同じで、W杯の話題を世界中に広めるということでした。
大会公式ボール「ブラズーカ」に6つのカメラを内蔵した特別なボール「ブラズカム」を制作。
これをロンドン、ミュンヘン、マドリードをはじめ世界各地に送り、撮影されたサッカーシーンを一つの360°インタラクティブ映像にまとめた。
——これまでのお仕事を見ると、元々は広告媒体ではないものをメディアとして活用する事例が多いと感じます。そうした新しいメディアを作り出すことを意識しているのですか。
近年、メディア環境や消費者の価値観・行動パターンをはじめ、世界は大きく変化してきました。5年前と今とでは、コミュニケーションのアイデアを考える順番が違います。以前はメディアありきで、そこにアイデアをどうはめ込んでいくかという発想でしたが、今はアイデアありき。アイデアを最も良い形で実現するためのメディアプランを立てます。新しいメディアを開拓したいと思っているわけではなく、メッセージが消費者に対して最も伝わりやすい方法を、既存の枠に捉われずに考えているというのが実態です。
「GAYTM」も従来型の広告媒体は使っておらず、既存のATMをキャンペーン仕様に装飾しただけです。重要なののは予算規模ではなく、アイデアの強さなのだと再認識した事例でした。
——カンヌライオンズのアウトドア部門について、近年感じているトレンドはありますか。
公共の場所に掲出され、幅広いオーディエンスにリーチすることができるーーその点で、アウトドアメディアが非常に影響力の強いメディアであることは過去も現在も変わりませんが、活用の仕方が変化してきていると感じます。
変化を表すキーワードのひとつとして、「インタラクティブ」が挙げられます。例えば、スマートフォンを持ってその広告の前を通りかかるとメッセージが送られてくるなど、ただそこにあるだけではない、双方向性を付加した事例が増えてきているように思います。
近い将来、アウトドアメディアは、消費者に対してよりパーソナルな情報を提供する力をも持つようになるのではと思っています。例えば、高血圧治療の医薬品の広告で、手を触れると血圧を測定して教えてくれるとか……。テクノロジーがさらに発展することで、双方向性やアクセスが簡単にできるとか、そういうことが加速していくと思います。
プライバシーには慎重に対応する必要があるものの、先ほど話した高血圧治療薬の広告の事例は、ドバイの空港ですでに展開されているものです。
デジタルの力によって、アウトドアメディアは広告としての機能に留まらず、商品購入の場としての役割も果たすようになると考えています。例えば、これは我々がフィンランドで実験を進めている事例ですが、ビルボードを商品を購入するためのセレクトスクリーンとして機能させています。商品を選択し、表示された商品コードをスマホで入力すると、画面上で決済ができ、商品は自宅に送られます。